チームを強くした上司の転職事件

20世紀が終わるころ、東京支社で、都内の居酒屋などに酒類を卸す業務用大手酒販店を担当する課長だったときだ。ときどき、担当者が運転して得意先回りに出る車の助手席に、ふらっと乗り込んだ。「今日は一緒にいくぞ」と言うだけで、車中で何かを話しかけるわけでもない。担当者の愚痴を聞きながら、黙っていた。

キリンビール社長 布施孝之

得意先に着いても、口は最低限しか開かない。自分が話したほうがうまくいくと思っても、担当者に任せる。同行の目的は、何げなく部下たちの不満やアイデアを聞くためと、現場の実情をつかむためだったからだ。課には5、6人の外回りがいたが、誰かに限って同乗したわけではない。全員と、分け隔てなく接した。