振り返れば、会社生活というのは、苦しいときの思い出のほうが残る。逆風下でのチームの結束力は、強かった。あのときに何を考えたかと言えば、「リーダーは、どんなに辛いときでも、下を向いてはいけない。下を向くと、チームがもっと落ち込む」ということだった。そんな逆風下、分け隔ては禁物だ。そして、ああいう体験こそが、チームを強くする。
「隔之一字、人情之大患」(隔の一字は、人情の大患なり)――隔とは分け隔てのことで、それは人々の思いにとって大きな憂いとなる、との意味だ。中国・明の処世道の著『呻吟語』にある言葉で、たとえ逆風下でも、部下の実績や職位に関係なく全員と同じように向き合い、意見を聞き、針路を示す布施流は、この戒めと重なる。
1960年2月、千葉市で生まれる。父はサラリーマンで、母と妹の4人家族。小学校を卒業するころ、テレビでミュンヘン五輪を目指す男子バレーボールの「ミュンヘンへの道」を観て感激し、中学でバレーボール部に入る。高校でも続け、早大商学部でも同好会に入った。
同好会では、歴代の先輩が東京女子大のバレーボール部の指導を受け持ってきて、2年の秋に監督の座を譲られた。13部制の関東女子リーグで、8部から7部に昇格したころで、7部には6校。他の5校とは力の差が大きく、部員全員に「うちの強みは何だと思う?」と問いかけた。もっと上へ昇格するには、その強みを発揮し、相手の弱点を突けばいい。そう説いて、週3回通い、卒業までに4部へ昇格させた。
控えの部員にも問いかけ、「隔之一字」を避けたのは、思いを共有してほしいからだ。しかも、控えの面々のほうが、一生懸命に練習していた。それをみて「全員で1つのチームなのだ。絶対に分け隔てはいけない」と思う。スポーツでも会社でも、優秀な人とそうでない人があるのは当然でも、すべてを公平にしないと、チームは成り立たない。とくに、日が当たらないところで頑張っている人たちに、光を当ててあげたい。
就職では、「ビールはわかりやすく、身近な商品」という点から興味を持ち、面接を受けた。もちろん、ビールが好きだった。