“時というものは、それぞれの人によって、それぞれの速さで走るものだ──”そんな古の格言を借りずとも、それは誰もが体感しているはず。人や時間に「隷属する」側に甘んじず、人や時間を「使いこなす」側に回るには、暦、カレンダーに囚われてはならないのだ。その生きた教科書である“彼ら”の哲学とその行動に、我々はとくと学ばねばならない。
お金よりも、時間のほうが大切
国家やその下で活動する企業では、時間の流れがきちんと定量化され、暦やスケジュールによって可視化される。そこで生きる人々は、その律儀な目盛りに従って、日々の生活を営んでゆく。
その一方で、そもそもそこに組み込まれてこなかった人々もいる。国々を渡り歩き、各地で規定された“時間”に従わない。したたかなその営為は、国や企業に頭も体も組み込まれた人々にとって理解不能の横紙破りであり、差別や迫害の対象となりがちだ。
全世界からそういった人々の代表格と見なされているのが、ユダヤと華僑という2つの集団であろう。
彼らがたどってきた数奇な歴史を鑑みれば、その「時間観」が国家や企業の構成員と異なるのは当然だが、その中でよくも悪くも金儲けの達人だとして嫉妬と羨望を集めてきた彼らの「時間観」が、お金に繋がる何らかのエッセンスを含んでいてもおかしくはない。
「私の周辺にいる香港在住の華僑は、西暦と旧暦の2つのカレンダーを使い分けています」――そう語る真弓・ナタリー・ユエン氏は、香港で事業を営む傍ら海外の富裕層、特に華僑の大富豪の教えで不動産ビジネスに着手、現在は年1500万~2000万円の不労所得を得ているという。
「お正月や中秋節は、中国における正式な暦である旧暦に従います。香港の人は、誕生日を西暦と旧暦の両方でお祝いするだけでなく、普段の休日も、長期休暇も、お祭り事も都合よく2倍に換算する(笑)。日本では『1年の計』という言い方をしますが、私がお会いする華僑の方々の動きには、そういう1年単位という時間の感覚は感じません。“変化”に対する考え方が日本人とは違う。1年、2年といった決められた単位ではなく、自分たちが見つけたチャンスのサイクルで物事を考えている気がします」(ユエン氏)
例えば不動産投資。香港では日本のように何年も前から国の事業計画が告知されることはまずない。が、いざ告知されれば、早ければ建設スタートまで半年という速さで進む。
「何事も日本よりサイクルが速い。景気の浮き沈みに関係なく、そんなスピードで現れては消え、現れては消えるチャンスに合わせて彼らは考え、行動しているのでは」(同)