稲盛和夫氏が塾長の「盛和塾」を立ち上げたワタベウェディング相談役・渡部隆夫氏。稲盛氏から「経営者としてのフィロソフィー」と「アメーバ経営」を学び、海外挙式の導入、ウエディング業界初の上場を成し遂げた。今ではシェア、売上高、婚礼年間取扱数で日本一となったワタベウェディング。その成功の要因は、ハウツーだけにとどまらない、稲盛氏直伝の経営者哲学にあった。

メチャクチャ初対面で叱られた

ワタベウェディング相談役 渡部隆夫氏●1941年、京都府生まれ。59年、京都府立山城高校卒業。同年、ヤナセ衣裳店入社。61年、ワタベ衣裳店入店。78年同社社長。96年ワタベウェディングに社名変更。2008年会長、10年より相談役。

経営者になれていない私が、ワタベウェディングをここまで大きくすることができたのは稲盛さんのおかげです。稲盛さんから経営者としてのすべてを学びました。

37歳で私が社長に就任した当時の稲盛さんは、アメーバ経営で大成功したというイメージが全国的にも定着しはじめたころでした。

そんな地元企業の成功者から経営の手法を学ぼうと、周りにいた若手経営者と相談して京都青年会議所(JC)の勉強会に講師として稲盛さんを招いたのです。登壇した稲盛さんは、私たちを睨むと、「平日の18時に若い君たちが、会社を抜け出して何をやっているんだ。どうせ飲むために集まっているんだろう。勉強会などとくだらないことをやってないで会社に戻って仕事しろー!」

と開口一番雷を落とされ、講演はストップしました。あわてた私はせっかく来ていただいたのだから経営に役立つ話をしてほしいと、なんとかお願いして帰ろうとする稲盛さんを説得し、1時間ほど講演を続けてもらいました。

そして、質疑応答の時間になり、私は一番に手をあげ「アメーバ経営とはどういうものかを教えてほしい」と発言しました。すると稲盛さんは私を睨み、「経営のことは自分で考えろ!」と、さらにきつい調子でお叱りを受けたのです。それが私の稲盛さんとの初対面でした。

でも考えてみれば、飲み会に行くのが目的ではないとはいえ、勉強会と称して本業が疎かになるのは間違ったことです。稲盛さんのおっしゃる通りだと気づかされたので、JCをスリープして経営に専念することを決意しました。

しかし、JCをスリープすると情報が入らず経営者としての不安が強くなったのです。私が変わるきっかけを与えてくれた稲盛さんに、経営について教えを請いたいという思いが日増しに強くなりました。

「叱られたが、今は心を入れ替えて経営を頑張っているので、もう少し噛み砕いて、『経営者の正しいあり方、考え方』について教えてほしい」と再びお願いしようと、稲盛さんの行きつけの飲み屋で客のフリをして、何度も待ち伏せました。