叱って伸ばすか、褒めて伸ばすか

最初は断られましたが、何度もしつこくお願いをするうちに「講演をするには、準備に時間を費やさないとならないから、私にはできない。夜8時か9時ごろから、飲みながら質問に答えるというやり方ならいい」と了承していただけました。そこで20人ほど経営を学びたいという若手経営者が集い、稲盛さんを囲んでの勉強会をすることになりました。これが今では8000人を超える経営者が稲盛塾長から直接「人生哲学」と「経営哲学」を学んでいる「盛和塾」のはじまりです。

私は自分が気になっていることのすべてを稲盛さんにぶつけました。「コンサルタントやビジネス書には『部下は叱って伸ばせ』とあったり、『部下は褒めて伸ばせ』とあったりするが、どちらが正しいのか」と問いました。今でこそ、こんなくだらない質問をよく稲盛さんにぶつけたなと思いますが、私たち経営者は孤独です。相談できる人などいません。稲盛さんは私の問いにこう返されました。「叱ればいいというものではないし、褒めればいいというものでもない。経営者の目的は、組織を正常に機能させること。そのためには優しさと厳しさの両面が必要である」と。

当時の私には「売上高100億円まで業績を伸ばして上場したい」という夢がありました。しかし、家業の貸衣裳店を結婚式場まで手がけるブライダル会社へと発展させ海外進出したものの、売上高20億円程度で足踏み状態になっていました。もし稲盛さんから「アメーバ経営」のノウハウを学び、社内体制を整備・構築していければ、業績は一挙に伸ばせるはず、と思ったのです。

月に1回程度、膝を突き合わせるようになってから、「具体的な経営手法を教えてほしい」と再びお願いしても「自分で考えろ」と断られてしまいました。しかし、何度もお願いをしているうちに「経営塾をしてもいいが、全国的な組織として活動する」という条件で引き受けていただけることになったのです。このときは本当に嬉しかった。アメーバ経営を導入した会社の第1号になれるわけですから、絶対に業績は急激に上昇し、上場できると確信したのです。

事実、現実はそうなったのです。

ただ、アメーバ経営を導入しようとした際は、社員の大半から「京セラはメーカーだから、アメーバ経営で成功したけれど、ワタベウェディングのブライダルサービス業とは勝手が違うから失敗する」と非難されました。それに、これまでも数値目標を掲げてやってきましたが、「社長自ら目標を立ててやっているだけで、私らには関係ない。目標達成のために努力はするが、達成したら社長にいい格好をされるだけでしょ?」と社員に言われてしまったのです。