40年前、30代のときに書いたベストセラー『企業参謀』は世界のリーダーのバイブルとなった。国をも動かす名参謀の力量とはどんなものか。
マハティールの参謀として日本を見る
参謀の使われ方もいろいろある。大将が戦略やアイデアを持っていて、それを実現するために力を貸してほしいと要請される場合もあれば、ゼロベースで戦略を立案したりアイデアを考えてほしいということで招聘される場合もある。
私が「参謀役」を引き受けてきたのはもっぱら後者のパターンだ。クライアントの立場、ポジション、考え方、能力、実行力などをトータルに推し量って、「この人は何をやるべきなのか」「この大将ならこんなことをやったら素敵だな」と思うようなアイデアを考えるのだ。
となれば“パートタイム仕事”というわけにはなかなかいかない。だから、私の場合は1人の主に長い期間仕えることが多い。一番長かったのはマレーシアのマハティール・ビン・モハマド元首相で、経済アドバイザーとして18年も付き合った。
1981年にマレーシアの第4代首相に就任したマハティールは「ルック・イースト」という政策を掲げた。旧宗主国のイギリスやアメリカなどの欧米ではなく、ルック・イースト、つまり「日本に学べ」ということだが、奇跡的な戦後復興と高度成長を遂げたというイメージ優先で、実際に日本から何を学ぶのか、具体案があったわけではない。そのお手伝いをすることになったのだ。
私は歴史学者でもないし、社会学者でもないが、マハティールの参謀として日本を見たときに、2つ、3つ際立った特徴があった。
一つは通商産業省(現在の経済産業省)が主導して日本の産業構造の転換をしてきたことだ。通産省は計画経済でもないのに5カ年計画を策定して、次代の重点産業を「白書」にして世に知らしめた。「鉄は国家なり」といって鉄鋼生産を強化し、70年代中頃には鉄鉱石も無煙炭もほとんど出ない日本を世界一の鉄鋼王国に押し上げた。