球場で目立つのは女性だけで集まるから

東京のカープ女子に目立つのは、特定の選手を応援するカジュアルな姿勢である。特に人気なのは、エースの前田健太を筆頭に、堂林翔太、菊池涼介、大瀬良大地、一岡竜司、野村祐輔など若い選手たちだ。

カープに若手が多いのは、決して偶然ではない。昨年も大竹寛が巨人にFA移籍したように、実績ある選手はカープを離れがちだ。しかし、その分若手にチャンスが与えられ、さらに近年は希望枠の廃止もあって、新人獲得にも成功してきた。前述の選手以外にも、中田廉、福井優也、田中広輔など、現在の主力の多くは過去5年以内に入団した選手である。

アイドルファンにも近しいカープ女子の姿勢は、たしかにブーム的ではある。しかし、球団も将来に向けてそれをしっかりと繋ぎ止める策も怠ってはいない。それが先に挙げた観戦ツアーやグッズの充実などの経営努力だ。それはライトユーザーをヘビーユーザーに成長させる施策だとも言えるだろう。

一方、「○○女子」といった呼称は、いったいなにを意味するのか?

近年、「腐女子」や「こじらせ女子」など、さまざまな属性で「女子」が使われている。カープ女子も、この文脈で生まれた言葉だ。それらは、女性たちが自身を再定義する機能を持つ。噛み砕いていえば、「キャラ化」である。

現代の若者にとって、キャラ化は必須のことだ。ケータイやネットによってコミュニケーション総量が増え、対人関係も濃密化・複雑化するなか、若者たちは場面によってキャラを使い分けて生きている。決してそれは素顔を隠すための仮面でも、自分探しの末にたどり着いた唯一的なアイデンティティでもない。言うなれば、カジュアルかつ必須のコスプレ衣装のようなものである。カープ女子も、プロ野球観戦という趣味に対応したキャラ化である。

さらに、この「女子」という言葉は、女性同士で形成された強固な関係性を含意している。言うなれば、男性から距離を置いた、女子校的な関係性だ。カープ女子も、女性だけの集団が目立つからそう名付けられたのだ。

現状、こうしたカープ女子の多くはライトユーザーであり、現在もブームと呼べる域からは脱していない。選手名をろくに知らないカープ女子もいると耳にする。だが、おそらくこの流れは定着する方向に働くはずだ。球団が彼女たちに積極的に働きかけるのは、プロスポーツがより多く若年層を取り込んでいく必要に迫られているからだ。カープ以外にも、ソフトバンクやオリックス、DeNAも積極的に女性層にアプローチし始めた。その動きはセレッソ大阪など、Jリーグにも波及している。

このように、カープ女子とは、プロスポーツにおける経営戦略と、スポーツ文化を軸とした女性たちの自己の再定義が合致したところに発生した、新しい現象なのである。

※1:「球界再編問題から10年:プロ野球 第2部・番外編 球団首脳に聞く 広島・松田元オーナー」(毎日新聞8月9日付)。「放映権料収入は球界再編前後が年間30億円で、今は13億円くらい」とのこと。
※2:広島市ホームページ「広島市民球場運営協議会の概要」より。広島市外からの来場者が7割、リピーター率も7割というデータも公表されている。

ライター、リサーチャー 松谷創一郎
1974年、広島県生まれ。商業誌から社会学論文、企業PR誌まで幅広く執筆し、企業のマーケティングリサーチも手がける。著書に『ギャルと不思議ちゃん論:女の子たちの30年戦争』、共著に『どこか〈問題化〉される若者たち』などがある。
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