日本の「強さ」はW杯で13位だった
私はスポーツ統計学者として、サッカーワールドカップブラジル大会の開幕前に「日本代表は56%の確率で1次リーグを突破する」と予測しました。しかし結果として日本は決勝トーナメント(決勝T)に進めませんでした。日本に対する評価は過剰だったのでしょうか。私はそうは思いません。統計的分析は、適切なマネージメントが行われていれば、日本が決勝Tに進めたことを示唆しているからです。
開幕前、私は参加32カ国の実力を算出することを試みました。その方法は、前回W杯以降4年間で開催された参加国同士の対戦結果をサンプルとし、その中から各国の得点力だけに注目して実施しました(※1)。上記の基準で得たデータを、「ブラッドリー・テリーモデル」とよばれる統計学的手法にあてはめて分析を行った結果が表1です。統計学的手法によって事前に導き出された実力上位8チームを、ブラジルW杯の最終順位と照らし合わせてみると、上位4チームのうち、3チームがベスト4以上、また上位8チームのうち、6チームがベスト8以上となり、的中率はどちらも75%となりました。マクロの視点からみれば、妥当な結果が得られた事がわかります。
さて、日本が入った「グループC」の強さを分析すると、
コロンビア(5位)>日本(13位)>コートジボワール(20位)>ギリシャ(23位)
となりました。FIFAランキングでは4カ国中最下位である日本がこの位置にいるのは、過去4年間の強豪国との対戦実績が反映されたものと考えられます。
実は英国のブックメーカーによる首位通過予想の序列においても、
コロンビア>日本≒コートジボワール>ギリシャ
であり、さらにはブラジルのスポーツエージェント・プルリによる選手の市場価値合計の序列でも、
コロンビア>コートジボワール>日本>ギリシャ
となっていました。この3つのデータに共通するのは、1位がコロンビア、4位がギリシャという点です。
グループCにおいて、特筆すべきは、コロンビアが頭ひとつ抜けている存在だったということでしょう。過去4年間でこの4カ国間の対戦は一度もありませんでしたが、第三国との対戦成績をもとに算出したポアソン分布による、各チームの対コロンビア戦の予想勝率を求めたところ、
ギリシャ 12.1%
コートジボワール 8.1%
日本 13.0%
となりました。コロンビア戦に関しては、どのチームも勝利確率は低く、ここから勝ち点を奪うことは困難だったことがわかります(※2)。また引き分けも考慮するとコロンビアが勝ち点7以上で1位通過できる確率は60.9%となりました。
グループリーグはトップを目指さなくても、2位以内に入ることで決勝Tに進出することができます。そうなると、他の3チームにとって、コロンビア以外のチームから勝ち点を4以上獲得することが、決勝T進出の必要条件となるわけです。つまり日本は2戦目までに勝ち点4以上を獲得し、コロンビア戦をある意味「捨て試合」にする流れが必要だったわけで、それを実現するための戦略マネージメントができていたかが重要なポイントだったのです。