7月3日、東京地裁で東京海上日動火災保険を被告とする損害賠償請求訴訟の第2回公判が開かれた。原告は現役の同社社員。社員が勤務先の会社を訴えたことに加え、同社の損害保険金不払い問題が裁判の焦点になっていることから、メディアの注目度は高く、5月29日の初公判には取材記者が殺到した。
「私は現在進行形で会社側に名誉を毀損されているようなものです」――第2回公判で原告の50代男性社員は裁判長にそう訴えた。男性は今年3月19日に東京海上とかつての上司(課長)を提訴した。
訴状などによると、男性は有名大学出身で入社6年目に主任、11年目に課長代理と順調に昇進を重ねたエリート。2005年の会社の人事考課は「S」ランク。これは課長代理クラスの社員の中の上位5%が対象だ。ところが翌年、本人の知らないうちに突然「B」ランクへと2段階降格。10年には最低の「D」ランクに格下げされて、主任に降格された。
上司に降格の理由を聞いても納得のいく説明がなく改善もなされない。11年に労働審判手続きを申し立てた男性は、この審判に会社側が提出した証拠資料を見て、初めて自分の評価の急落を知った。
また会社側は審判に証拠として当時の課長が作成したとされる社内報告書を提出。これは05~06年にかけて社会を揺るがした損保各社による84億円に上る保険金不払い問題の渦中に書かれた。内容は、男性が「安易に判断して一律『支払い対象外』とする報告を独断で行った」、保険支払い関連書類の入ったフォルダを男性の「不十分な指示のため担当者が廃棄した」などというもの。これが不祥事として役員に報告されたことが降格の原因とされるが、男性側は、上記の内容はいずれも“虚偽”で名誉毀損に当たるとし、「実際は05年の不払い発覚後、会社から不払い件数を少なくするよう指示され隠蔽作業をやらされたうえに、責任を会社側に押し付けられ、筆舌に尽くしがたい精神的苦痛を蒙った」(男性の代理人弁護士)としている。
同社広報部は男性の主張を根拠がないと指摘、「(隠蔽を指示した)事実はありません」というが、第2回公判で男性は「訴状の主張に対し会社側は“虚構”と反論しているが、どこが事実でないか(個々の事実関係の)認否をしてほしい」とした。次回には会社側が事実認否の文書を法廷に提出する見込みだ。