ビズリーチ 坂本猛
1978年生まれ。名古屋大学工学部卒業後、JTB、リクルートエージェント(現リクルートキャリア)を経て2011年、ビズリーチ入社。現在、キャリアトレック(20代を対象とした転職サイト)プロデューサー。

このビズリーチのオフィスがある渋谷クロスタワーのエントランスには、毎月第3金曜日になると、ピザーラ渋谷店の配達員の人たちがずらりと並ぶんですよ。というのも、その日にうちのオフィスで社員全員参加のピザパーティがありましてね。いまは社員が300人以上いますから、エレベーターの前にいる人たちが何事かと振り返るくらいの量があるんです。ピザ60枚なのですが、たぶん渋谷エリアでいちばんピザを頼んでいる会社なんじゃないかな。

そのピザパーティなのですが、社長の南壮一郎いわく社員が2人しかいなかった時代からやっている「伝統」なんです。何のためかと言われれば、理由はちゃんとあります。

ベンチャーにとって組織の成長は宿命みたいなものですよね。成長するからこそのベンチャーなわけで。でも、そうした会社にはもともと社内の文化に歴史的な裏づけがあるわけでもないので、何もしないと規模が大きくなるに連れて社員同士のコミュニケーションがどんどん断絶していってしまいます。

例えばビズリーチのコアな理念は南がいつも言っているように、「仲間」と思いっきりアクセルを踏んで面白い経験をしようぜ、ってことです。1人でやるんじゃない、仲間でやるんだ。事業で何をやるかということを考える以前の大前提として、みんなで既存のルールを変えるようなことをやろうぜ、っていう思いにこだわっているわけです。

ただ、今でこそ新卒採用もしていますが、やっぱりベンチャーは中途採用が多い。その中で事業の成長のスピードが速いと、どうしても文化がついてこないところがあるんです。

結局、それぞれの社員が背景としているキャリアや前提が異なるから、同じ言葉を使っていてもそれが微妙に違う意味であることが普通にあるし、社員が少人数でかつ少しずつ増えていれば自然と共有できる価値観、特にその企業の本質を表すコアな部分のニュアンスが伝わらなくなっていくんですよね。ビズリーチであれば「仲間で勝とうぜ、世の中変えようぜ」という言葉が、南が考えているようにそっくりそのままは伝わらない、というのかな。何しろこの会社は去年200人だった社員数が、今は300人を超えてさらに増えているわけですから。

で、ピザパーティは常にそれを共有するためのコミュニケーションインフラの一つなんです。ほかにもビズリーチでは運動会や社員旅行も普通にあるし、ちょっと思いついた事業を自分でやってみたければ――草ベンチャーと呼んでいるのですが――社内で仲間を募って事業を立ち上げることもできます。

他にも「コミュラン」=コミュニケーションランチと言って、毎月自動的にピックアップされた社内の4人でランチに行く、なんて制度もあります。そのマッチングのシステムもわざわざ開発したんですよ。会社って大きくなると横の部署が何をしているのかが分からなくなっていきますが、業務上は直接かかわりのない人と話すと仕事のヒントになったりもする。南からすれば、それはすべてこの会社を2人でやっていた頃の雰囲気をそのまま継続していくための工夫で、組織が大きくなってもベンチャーらしさを保てるかという一つのチャレンジなんでしょうね。