グローバル化の波は近年ますます激しさを増すとともに、その中心は欧米からアジアにシフトしつつある。そんな中で私たち日本人はいかに生きたらいいのか。北尾吉孝氏はこれまで『安岡正篤ノート』『森信三に学ぶ人間力』『日本人の底力』で、このテーマに言及してきた。本書もまたその延長線上にある。
「出光さんは87歳のとき自分の人生を振り返り、こう言っています。『僕は日本人として、日本人らしく、実行の道を歩いてきた~(中略)~ただひたすら日本人の道を歩いてきたにすぎない』。これは、日本人であるという自覚を持てば、必ずや事を成すことができるというメッセージなのです。和の精神、『自尊』『伍尊』という考え方、物質よりも精神、道徳……こういった日本人の特性を思い出し、そこに立ち返ることで、これから進むべき道が見えてくる。それを私は出光さんの言葉を借りて伝えたかったのです」
北尾氏は高校生のころ、初めて出光佐三の著書を読み、その類いまれな人間性に畏敬の念を抱かずにはいられなかったという。「出光さんは、1945年8月17日に、全社員を集めこう伝えています。1、愚痴をやめよ。2、世界無比の3000年の歴史を見直せ。3、そしていまから建設にかかれ。3000年の歴史を見直せというのは、それだけの歴史に裏打ちされた日本人の民族性を信頼していたからです。しかも、これを言ったのは終戦からわずか2日後。普通の人なら頭の中が“真っ白”で、これからのことなど考える気も起きないでしょう。最初にこれを読んで驚愕した私は、他の経営者が同じ時期にどんなことを言っていたのか書物を調べてみましたが、ついに見つかりませんでした。出光さんのように強い精神力を持って、印象的な言葉を発することができた人は、ほかにいなかったのです」。
もうひとつ、出光佐三が生涯貫いた信念。それが「人間尊重」だ。
「戦後、海外で働いていた800人の社員が一斉に引き揚げてきました。しかし、会社にはお金も仕事もありません。有能な一部の人だけを残してあとは解雇しても、誰も文句は言わないでしょう。ところが出光さんは『一人の馘首もならぬ』と宣言し、そのとおりにしました。こんなことができる経営者を私はほかに知りません。もちろん、いまの時代に同じことをやるのは難しいし、はっきりいって無理だと思います。ただ、『人こそが資本である』という出光さんの哲学は、現代の経営者も大いに学ぶべきだと思います」