ビジネス書は、「経営かくあるべし」という上から目線か、「こう働いたらハッピー」という個人目線か、どちらかで書かれているのが普通だが、本書はちょっと違う。両者のハイブリッドなのだ。日本の会社はこんなところでこんな欠点があるから、あなたはこう働いたらどうだろう、という論法で話が展開する。
書名にある「一体感」。通常、いい意味で使われる。なぜそれが悪なのかといえば、副題にあるとおり、異質と一流を排除する未熟な組織を温存する言い訳に使われてしまうからだ。秋山さんは語る。
「数は少ないものの、組織内の出世より自分の技術の向上を重視する仕事人が企業にはいます。頑固でこだわりが強く、人づきあいが悪い一種の『変人』です。スポーツでいえばイチロー選手や中田英寿元選手です。彼らは一流ですが、それは他者との安易な一体感を拒否する異質さなしには成立しなかったはず。その異質さと一流を兼ね備えたのが変人です。当初、編集者に『変人たちの時代』という書名を提案したのですが、それでは売れないと却下され、いまの書名に落ち着きました(笑)」
秋山さん自身が実は生粋の変人なのだ。リクルート出身で、専門性の高い仕事を個人で請け負って生きていくインディペンデント・コントラクター(IC=独立業務請負人)という言葉を流行らせ、協会まで立ち上げた。
本書の前半部分では、そうした変人を排除してしまう未成熟なコドモ組織の実例が豊富に挙げられている。「ああ、うちの会社のことだ」とうなずく話がいくつもあるに違いない。
変人をうまく使えないコドモ組織を変えるには、社員がコドモから大人になる必要がある。具体的には、自立と自律、2つのジリツの重要性を秋山さんは指摘する。「前者は、社会にとって価値ある技術やスキルを備えていることであり、後者は自分なりの規律を持ち、それに沿って行動できることです。その両方を高めることが望ましいわけですが、問題は、自律を十分に果たさないまま管理職になってしまう人が多いこと。そういう人ほど、『わがままだけど技術には優れている一流の変人』を排除してしまうのです」。
日本企業における変人の割合は、これまでかなり低かったが、これからは上がるのではないか。出世に興味のない若い世代が増えているし、転職もあたりまえになった。企業側も年功序列の度合いを弱め、出世を求める組織人より、技術向上に楽しみを見出す仕事人を育てようとしている。変人たちの時代がどうやら来たようだ。