社員は「叩いて」伸びる?
経営者が自分の後継者を育てるために、選抜した部下に焦点を定めて、「叩いて伸ばす」という話はよく聞きます。選ばれた部下もその意図を感じ取っているので、多少きつくても腹を据えています。現に「先代に叩かれて育った」と話す社長や役員は少なくありません。その「先代」はサクセッションプランニング、つまり次世代経営者の候補となる人材をプールし、年月をかけて計画的に育成していたはずです。「叩く」というよりも「鍛える」と言った方が適切かもしれません。
この場合、鍛える側もその人材に組織の永続性を賭ける覚悟がいります。また、厳しく鍛え上げていく以上、その人材への責任も伴いますから、たとえば「OJTをする」といったような軽い気持ちで行えるものではありません。
このように、日本の組織で伝統的に言われてきた「叩いて伸ばす」は、経営者や幹部の後継者育成において座りがいい言い方でしょう。それは、昨今重要視され始めてきたサクセッションプランニングと重なる概念であると捉えることができます。
さて、このあと考えたいのは、多くの一般社員の育て方です。「叩く」の意味があいまいですが、部下にダメ出しを繰り返し叱ることが常態化している上司、あるいはそのような組織文化をイメージして頂きたいと思います。
私は人材育成のお手伝いを事業としているため、仕事で経営者にお会いすることが少なくありません。経営者の口からよく出るのは、特定の有名な企業を指して、「N社では上司が部下をビシビシ鍛えるそうですね」といった羨望が混じったお話です。
しかしながら、いまの時代、多くの社員はそういう盲従的な上下関係を好みません(親分子分のムードが好きな人も一部いますが)。伝統的に厳しい社風とされてきたN社にしても、せっかく採用した社員が辞めないように細心の注意を払っています。営業のモチベーションが業績に影響することも、「俺の背中を見て付いて来い」式の終焉も知っています。またダイバーシティ、つまり社員それぞれの多様な価値観を受け止め優秀な人材をキープしようとしています。そうしないと経営の効率が悪いからです。