取材場所は著者・林伸次さんのお店「bar bossa」。林さんは開店前の夕方にもかかわらず、気持ちよく迎えてくださった。
「このエッセーは、修業期間から、開店まで、そして17年間、店をやってきた経験、感じたことを、ありのままに綴りました。飲食店で働いている人、自分でバーを開きたい人、いつか起業したいと思っている人に“僕はこうやってきましたよ”という“詳細な現実”と、その時その瞬間の“正直な気持ち”が伝わってくれたら嬉しいです」
手に取りやすいソフトカバーの装丁、興味深い帯の推薦文、本文の扉にある「谷川俊太郎の詩」、そして気になるタイトルについては「すべて編集者が優秀だった結果ですよ」と隣に座る担当編集者を褒め「友人・知人の編集者に、本をつくるときは余計なことは言わず、すべて編集者に任せること、とキツく言われましたから……正解でした」と笑顔の林さん。エッセーの文体通り、穏やかで、謙虚で、ユーモアのある人物でした。
ちなみにタイトルの答えは第3章「ユニホーム導入、その理由」に書かれていますので、この記事を読まれた方は、ぜひ書店にて本書を手にとってみてください!
「成功したい」「スキルアップのため」の自己啓発本が書店に溢れる中、この林さんのエッセーはどんな職業の人、年代の人が読んでも勉強になり、読後、どんな自己啓発本よりも大切なこと(普遍的なこと)が書かれていることに気づく。
ひとつは「人と人との距離感」、ひとつは「(物事を)続けていくことの喜び」についての記述だ。カウンター越しに眺める複雑な人間関係、出入り禁止を伝えるつらさ、嬉しかった言葉、喜びの瞬間、飲食以外のことに興味をもつことの大切さ……そんな喜怒哀楽の日常がこの本の中にある。
著者も、「bar bossa」も、もちろん現実の人・お店だけれど、この優れたエッセーは読者を架空の物語へと連れていき、温かな優しい気持ちにしてくれる短篇集のように感じた。
“お店は本当に生きています。日々息をしたり悩んだり悲しんだりします。それを感じてもらえるから、お客さまもそこに参加しようと思ってやってきてくれます”(本文より)
取材の最後、現在構想中(実際に書いている作品もあり!)の「小説」について語っていただいた。明確なビジョンを持ち、忙しい日々に言い訳もせず、執筆されているようだ。林さんの次回のエッセーと小説家デビュー、心から待ち望んでおります。