先に、オバマ大統領が来日されたとき、安倍晋三首相との夕食会が、銀座の寿司の名店、「すきやばし次郎」で行われた。伝えられるところによると、米国側のたっての希望だったという。
「すきやばし次郎」を仕切っていらっしゃるのは、小野二郎さん。現在88歳の、世界最高齢の「ミシュラン三つ星シェフ」である。
小野二郎さんには、NHKの番組『プロフェッショナル仕事の流儀』で、私がキャスターをつとめていた頃に親しくお話をうかがったことがある。その人生の物語は、感動的であった。
小学校に上がった頃から、奉公に出て、一生懸命働いた。店の仕事が忙しくて疲れてしまい、学校の授業でつい居眠りをしてしまう。先生にしかられて、立たされている間に、「そうだ、あの仕事をやってしまおう」と店まで走って、仕事を終わらせて戻ってくるという日々だったという。
幼い頃から、苦労された。独立するにあたって寿司を選んだのは、必要最小限の用意ならば、開業するのに一番お金がかからないからという理由だったそうだ。
それが今や、ミシュランの三つ星。アメリカのドキュメンタリー映画『二郎は鮨の夢を見る』の主人公となり、オバマ大統領が来日の際に訪問を熱望する名店となった。そこまでの小野二郎さんの軌跡を振り返ると、「一流」に至る道筋が見えてくる。
スタートラインは控えめで、簡素でかまわない。小野二郎さんの修業の始まりも、苦労の連続だった。
今、勤務する会社の中で、あるいは自分でつくった会社の運営で、苦労している若者はたくさんいるだろう。そのような状態と、若き日の小野二郎さんの境遇が、それほど異なるわけではない。