最近、あるクリエーターの方と会っていたときのこと。世の中で人気の出る才能には、どうやら2種類あるという話になった。
一つは、人々が無意識のうちに欲しているものを言い当ててしまう才能。「そう、こんな言葉を聞きたかった!」というようなことを言葉にするから、人々が熱狂する。政治家ならば、選挙に通り、やがて大臣になる。
もう一つは、内面からにじみ出る言葉を発して、すぐにはわかってもらえない才能。何しろ発想が新しいので、世間がついてこられない。でも、なぜか注目される。そのうち人々が、「ああ、そういうことか」と理解して、人気が出るようになる。
どちらが上ということはない。人々が求めているものを探り当てる才能は、それ自体身につけることが難しいから、価値がある。ただ、100年後、200年後まで残るような創造は、案外、後者の、そう簡単にはわかってもらえない才能から生まれる。
最近、「現代のベートーベン」と言われて人気が出た方がいた。結局、曲は他の人が書いていて、ベートーベンの部分も演技のようなものだったとわかってしまったが、「現代のベートーベン」と、「本物のベートーベン」の違いが、とても興味深い。「現代のベートーベン」と言われた方は、実際には耳が聞こえるのに、聞こえないように装っていたと報じられている。放映されたドキュメンタリーの中では、作曲に悩んで壁に頭を打ちつけたり、床の上で悶絶するシーンもあった。
人々が求めている「耳の聞こえない天才作曲家」というイメージに、あまりにも合っていた。だから、人気が出た。
ある意味では、一世一代の演技だったとも言える。