最高益更新、構造改革の真っただ中、イノベーションの途上……。それぞれの局面で求められているのはどのようなリーダーなのか。

国内石油需要が減少し、元売り各社が再編を繰り返す一方、「自主独立」を続けてきた出光興産。新規中期経営計画では戦略投資3400億円のうち8割を海外へ振り向け、収益基盤を海外に求める方針だ。実行を担うのは、「販売の出光」きっての販売通で海外経験もある月岡隆社長だ。シェールガス革命が進む中、“出光丸”をいかに舵取りするのか。

――創業者・出光佐三がモデルのミリオンセラー小説『海賊とよばれた男』を耽読されたとか。
出光興産社長 月岡 隆氏

【月岡】創業以来の物語を第三者に書いていただき、身の引き締まる思いだ。紙幅の多くが割かれたのが1953年の日章丸事件だ。石油を国有化し、イギリスと抗争中のイランは石油が売れず、困窮。佐三はイラン石油購入を決断。出光のタンカー日章丸は英海軍の海上封鎖を突破してイランに入港し、歓喜の声に迎えられた。「自分に薄く、その余力をもって人のために尽くせ」が佐三の理念だった。国や社会のためにやらなければならないことを先頭に立ってやる。それが出光だと改めて感じた。

今進めているベトナムでの精油所建設もその流れだ。自前の精油所がなく、石油製品を輸入していたベトナムから「協力してほしい」と声がかかったのが始まりだ。産油国クウェートも加えて合弁で建設する。大切なのは信頼関係だ。人と人との信頼に基づけば、国境を越えて理解し合えることを、出光の人間は日章丸事件を通して先達から学んでいる。

稼働予定は17年。この精油所を基盤にアジア市場で石油関連事業が拡大すれば、経済発展に貢献できる。その貢献を通して、出光の将来的な収益も確保していく構想だ。

――今でも思い出に残る仕事は。

【月岡】40代初め、出光がプエルトリコで買収したガソリン販売会社の経営者として1人で赴任した3年間だ。中間管理職になり、上と下に挟まれて悩み、ぐらついていた時期で、「行ってからでも辞められる」と赴任したら、1人で何でもやらないといけない。完全に吹っ切れた。

言葉で苦労しながら、出光の考え方を現地社員に説明し、出光ファンになってもらう。目標を達成するには人と人の関係が大切で、それに国境がないことを私自身、実感した。