天然ガスも石油も“無限エネルギー”に

アメリカ発の「シェールガス革命」(シェールオイルも含む)の影響が、徐々に世界経済や国際情勢に滲み出てきている。

米ペンシルベニア州における「シェールガス」の発掘現場

簡単に説明しておこう。「シェールガス」「シェールオイル」は、頁岩(けつがん)(シェール、堆積岩の1種)層から採取される「天然ガス」「原油」のことだ。通常の天然ガス(在来型ガス)は、比較的浅い地中から採掘されるが、シェールガス(非在来型ガス)は地下2000~3000メートルにある頁岩層から掘り出され、そこにはシェールオイルも眠っている。シェールガス、シェールオイルとも特別なものではなく、基本的には通常の天然ガス、原油と同じで採掘法が違うだけだ。

シェールガス、シェールオイルの存在自体は、昔から知られていた。しかしながら、地中深くの岩盤に封じ込まれているために取り出すことが容易ではなく、採掘にかかるコストも見合わなかった。

アメリカでシェール層を水平に掘り進める技術や、化学薬剤を添加した高圧の水でガスやオイルを含んだシェール層を破壊する「ハイドロ・フラッキング(水圧破砕法)」などの革新的な採掘技術が確立された2005年頃から、シェールガスの採掘が商業ベースに乗ってきた。

シェールガス、シェールオイルなどの“非在来型資源”の開発が可能になったことで、天然ガスや石油の可採年数は、大幅に増加した。従来、天然ガスや石油の可採年数は50~60年とされてきたが、シェールガスなど非在来型資源を加えた天然ガスの可採年数は250年以上、同じく石油の可採年数は100年にもなる。

今世紀に尽きることがなくなり、シェールガス、シェールオイルの実用化で、天然ガスも石油も事実上、“無限エネルギー”になったのだ。

シェールガス革命が全世界に波及すれば、エネルギー高、石油高の時代は終わりを告げる。再生可能エネルギーも、出る幕が少なくなってしまうのだ。

シェールガス、シェールオイルは、世界中で埋蔵が確認されている。シェールオイルの国別埋蔵量は、アメリカが飛び抜けているが、シェールガスに関してはアメリカよりも中国のほうが確認埋蔵量は多い。しかしながら、中国のシェールガスはアメリカよりも地中深くに存在し、採掘に必要な水の量が北部では圧倒的に不足している。加えて採掘技術も大きく劣るために、中国においては、シェールガスの開発・生産は最近ロイヤル・ダッチ・シェルなどとの話が進むまでは停滞気味だった。一方、シェールガス革命の発火点であるアメリカ。すでに莫大な量のシェールガスが産出されていて、シェール鉱床の多い州は19世紀のゴールドラッシュのような開発ラッシュさながらの様相を呈している。今や一大産地であるノースダコタ州やネブラスカ州などは、シェール関連の開発投資が集中して、失業率は全米平均の半分以下である3%台まで低下している。

すでにアメリカではシェールガスの生産量急増でガス価格が下落し、100万BTU(英米の熱量単位。1ポンドの水を華氏度で1度上げるのに必要な熱量)当たり3ドルを切るまでになっている。ちなみに日本はカタールなどから100万BTU当たり15ドル程度でLNG(液化天然ガス)を購入しているので、実に日本の5分の1の価格である。IEA(国際エネルギー機関)の年次報告によれば、「20年頃までにサウジアラビアを抜いてアメリカが世界最大の産油国になり、30年頃には中東などから原油を輸入しなくて済むようになる」という。

アメリカの現状は、石油に関してはいまだ在来型オイルの生産量のほうが多く、3割程度を輸入している。しかし、天然ガスは在来型よりも非在来型ガス(シェールガス)の生産量のほうがすでに上回り、消費量をオーバーして余っている状況にある。つまりエネルギーに関して、アメリカは自立できるところまできているのだ。