スタッフのやる気を引き上げる最良の方法は
シュルツさんのホテルにおいて、判断を下す根拠は、ビジョンである「キャノン」です。これをスタッフが正しく理解し、正しく行動し、お客様満足へとつなげるためには、スタッフにできるだけ自分で判断させるというのがシュルツさんの考え方です。
シュルツさんは、リスクをともなう大事な判断もスタッフに任せます。「その判断をするのにもっとも適しているスタッフは誰か」を把握し、そのスタッフに判断を委ねることによってやる気を上げ、彼らの判断に磨きをかけるのです。
「私より判断に適した人間が判断すべきだ。プロフェッショナルなスタッフがいれば、私がすべてを知り、判断する必要はない。彼らのやる気を引き上げるのが自分の役割だ」、そうシュルツさんは言います。リーダーからそんな風に任されたらモチベーションは上がります。スタッフは自分で主体的に考え抜き、出した判断には責任を持とうとします。
冒頭の小澤征爾さんは4人の指揮者に師事しました。そのひとり、カラヤンから次のように言われたことがあるそうです。
「きみは指揮をしすぎている。そこまで指揮しなくても、私のオーケストラはきちんと音を出す。もっとオーケストラの音によく耳を傾けなさい」
美しいハーモニーは、必ずしも厳格に指揮することで生み出せるものではない。1つひとつの音を信頼し、活かすことで引き出されるものもある、カラヤンは弟子である小澤さんにそう伝えたかったのではないかと思います。
判断を任されたスタッフは、確信が持てず迷ったり、ときには失敗してしまったりすることも少なくはないでしょう。そんなとき、シュルツさんはスタッフにこう言います。
「どうすべきかアドバイスが必要なら私を呼びなさい。がんばってやってみなさい。でも、もしできないなら、私がいるから大丈夫だ」
判断に確信が持てるようになるまでスタッフを見守り続ける存在あってこそ、お客様の期待に応え、ときに感動を与えるサービスの提供が実現できるのです。