歴史上、重要な転換期に活躍したのが参謀だ。経済が低迷するいま、トップから重宝される人材になるには、何をすべきだろうか。
では、その参謀に求められる条件とは何か。それを語るには、まずリーダーに必要な条件を挙げたほうが話がわかりやすいだろう。
(1)先見性、(2)判断力、(3)決断力、(4)部下を束ねる能力(人心掌握力)、(5)運。
この5つが激動期のリーダーに必要な条件だ。
このなかでリーダーを補佐すべき参謀に求められるのは、(1)の先見性と(2)の判断力だ。ほかの条件は不要である。たとえば(2)の判断力と(3)の決断力とは一見似ているが、このふたつの間には命がけというべきほどの開きがある。
判断は机上の論理にすぎない。たとえば日露戦争のとき、台湾方面からやって来るロシアの大艦隊、バルチック艦隊が対馬海峡を通って日本海に入り旅順を目指すのか、太平洋側から津軽海峡を渡ってくるのか、計算上では両方の可能性があると判断して連合艦隊の作戦参謀・秋山真之は、ノイローゼ状態に陥った。
だが、司令長官の東郷平八郎は「対馬海峡から」と決断して、そこを動かず、迎撃して日本海海戦に大勝利を収めている。決断を下すのはリーダーの仕事なのである。
その決断の材料となる判断データ、選択メニューを提供するのが参謀の仕事だ。司馬遼太郎の言葉では「決断力は心の問題、判断・作戦は頭の問題」ということになる。
企業が新商品を発売する場合も、参謀は「売れそうな商品」の提案まではできるが、未知数の新商品の発売に踏み切るかどうかはトップの決断力次第だ。
(4)の部下を束ねる能力も、参謀にはなくていい。むしろ他者との融合にこだわらない、異才であることが求められる。異才であるとはつまり、人とは違ったことを考えられる能力を持っているということだ。秋山真之は礼儀作法や身なりに構わない一種の変人だったし、陸軍満州軍総参謀長の児玉源太郎も同様だった。
みなの意見に気を配り、組織のまとまりに繋がるような案を練り上げるのは調整役の役目であり、参謀の仕事ではない。参謀にとって戦略は人と組織に優先する。あくまでも、戦略上必要だと判断する案を3つぐらい用意して、リーダーの決断に資すればいいのである。
以上がどの時代にも通じる参謀の条件だが、これに加えて現在の参謀に必要なものは何か。