理論上だけではなく心理的影響もある

金融抑圧の議論をいったん脇に置くと、金利は単独で上がるわけではない。

理論上、金利が上がるのは物価が上がっているからであり、物価が上がる世界では、時間差はあっても給料も上がっていくはずだ。

名目金利は実質金利に予想インフレ率を足したものになる。金利が上がった分は物価と給料の上昇で相殺され、インフレで借金も目減りする。

人々が合理的に予想し、市場がそれを織り込むなら、金利上昇は借り手にとっても貸し手にとっても有利不利を生まない。理論上は、全体としてほぼ均衡するのである。

しかし、実際の世界はそうはなっていない。まず、人は物価の変化を割り引いて考えるのが苦手だ。

行動経済学でいう「貨幣錯覚」で、人は実質的な価値よりも名目の数字に強く反応する。

金利が1%上がったという名目の変化には敏感に反応する一方で、物価と給料の上昇によって借金が実質的に軽くなっていくことは実感しにくい。

加えて、人は同じ大きさの利益より損失を強く感じる。返済額が増えるかもしれないという不安は、借金が目減りしていくという目に見えにくい利益よりも、はるかに大きく感じられる。

その結果、金利上昇を実際以上に恐れ、家を買うことやローンを組むことを控える人も出てくるだろう。理論上は有利不利がないはずだが、もし物価と賃金の上昇が金利を上回ることになれば、リスクを取って借りた側が有利になり、恐れて控えた側が不利になるという差が生じうる。

家の模型を前に考える男性
写真=iStock.com/takasuu
※写真はイメージです

理論上では、金利が上がれば収入も上がるはずで、実質金利が低いままであれば、あまり心配する必要はないのだが、未来は予測できないため、心理的にはそのような判断をそのまま受け入れられるとは限らない。

「いずれ家は余る」は、たぶん起きない

住宅ローンとは話が少しずれるが、空き家が多いから家を今買わなくても大丈夫だろう、という主張もあるようだが、たぶんそうはならない。

確かに統計上の空き家は増えていて、2023年の住宅・土地統計調査では、空き家は約900万戸、空き家率は13.8%と、いずれも過去最高になった。

しかし、この数字をそのまま「家が余っている」と読むのは早計で、日本には、1981年の新耐震基準より前に建てられた、いわゆる旧耐震の住宅がまだ大量に残っている。

国土交通省の推計では、耐震性が不十分な住宅は約570万戸ある。

こうした住宅がいくら空いていても、誰も住みたいとは思わない。

住みたいと思われない家が空いていることは、家が余っていることを意味しない。むしろ、2000年以降に建てられた品質の高い住宅は不足しているというのが実感に近い。