米国とのジャガイモ交渉はどうなるのか
かつて安倍晋三元首相はTPP交渉の最中、農産物自由化に反対する農林族のドンだった西川公也氏を自民党のTPP対策委員会の委員長、続いて農水大臣に任命したことがあった。西川氏が納得するなら農林族や農業界も文句は言えないという構図を作ろうとしたのだ。
高市氏がそこまで考えているかどうかはわからないが、今回の交渉は、アメリカがジャガイモに付着した病害虫を日本に持ち込まないような措置をとれるかどうか、それを科学的な証拠(scientific evidence)によって示すことができるかにかかっている。関税をどこまで引き下げるかという(科学が問題とならない、したがって政治的な決断だけが求められる)通常の通商交渉ではない。
輸入国が自国の農産物の安全のために植物検疫措置をとることができることは主権的な権利としてWTO・SPS協定でも認められている。科学が問題なら政治家である大臣の裁量の余地が少ない交渉だと言えなくもないし、アメリカが示す科学的証拠が十分かどうかについて、武部氏が大臣の任期中に結論が出るかどうかも不明である。このような考慮が働いたのかもしれない。
農水大臣ポストは不祥事多発の「鬼門」
冒頭にあげた高市首相の武部氏任命理由について順に説明しよう。なぜ世襲議員なのかということである。
今回の農水大臣辞任前、高市内閣の閣僚19名のうち世襲議員は3名(笹川博義環境大臣、小泉進次郎防衛大臣、葉梨康弘国家公安委員会委員長の3氏)しかいなかった。約3割から4割と言われる自民党の世襲議員の割合や第2次岸田内閣(2022年)における閣僚20名のうち12名(6割)が世襲議員だった(第2次石破内閣では21名中6名)ことに比べると、極めて少ない。
世襲議員の首相は世襲議員の閣僚を選ぶ傾向があるのかもしれない。高市氏はたたき上げだから、その逆の傾向が見て取れる。世襲議員の石破氏は農水大臣に小里泰弘・江藤拓・小泉進次郎各氏とすべて世襲議員を任命し、高市氏は鈴木憲和・簗和生氏と非世襲の議員を任命した。その高市氏が簗氏に代えて農水大臣に任命したのは世襲議員の武部新氏だった。これは、少し意外だった。
最近の農水大臣のなかで職務をまっとうしたと言える人は少ない。
簗氏の前に舌禍事件を起こした例として、2008年の汚染米事件では、太田誠一氏が「人体に影響はない。あまりじたばた騒いでいない」などと消費者の健康や食の安全を軽視していると批判を受けて辞任。23年には、野村哲郎氏が、放出が始まった東京電力福島第一原子力発電所の処理水を「汚染水」と表現して、翌月退任。令和のコメ騒動では、「コメは買ったことがない、売るほどある」などと発言して江藤拓氏が辞任している。

