ロシアの治安機関が北海道新聞の男性記者を拘束し、日本政府が抗議している。なぜ日本人記者が標的になったのか。ドラマ「VIVANT」の公安監修を手掛ける元警視庁公安捜査官の松丸俊彦さんに、フリーライターの一木悠造さんが話を聞いた――。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領
写真=Sergey Bobylev/Sputnik/共同通信イメージズ
2026年10月8日、トルクメニスタンのトルクメンバシで、イランのマスード・ペゼシュキアン大統領との会談に出席したロシアのウラジーミル・プーチン大統領

ロシア「情報機関の指示を受けたスパイ」

ロシア連邦保安局(FSB)は10月13日、ロシア極東サハリン州に駐在していた北海道新聞の日本人記者をスパイ容疑で拘束したと発表した。ロシア側は「日本の情報機関の指示を受け、防衛関連情報を収集していた」と主張しているが、真偽は不明だ。記者は2カ月間、勾留されるという。

この事件が速報されると、「記者がなぜスパイとして拘束されるのか」という驚きの声が広がった。元警視庁公安捜査官で海外安全アドバイザーの松丸俊彦さんは「報道活動かスパイ活動か」という二元論だけでは本質を見誤ると指摘する。

「公安捜査の観点から注目すべきなのは、ロシア側が何を証拠として押収したか、だけではありません。なぜロシア出国直前に拘束し、なぜモスクワに移送し、なぜ拘束映像を公開したのか。この一連の行動には、捜査上の目的と対外的な情報発信の目的が重なっている可能性があります」

この言葉こそ、今回の事件を読み解く最大の手がかりだろう。

「日本の常識」は通用しない

ロシア側によれば、記者は北方領土や千島列島からウクライナ戦争へ参加した動員兵や志願兵の人数などについて情報収集を行っていたとされる。

日本人の感覚では、それは当然ながらジャーナリストの仕事の範囲内だろう。実際、軍事や安全保障に関する取材は報道機関の日常業務の一環だ。

しかし松丸さんは、ロシアでは、そうした民主主義国家の常識が常に通用するわけではないと言う。

「動員人数や部隊の人的損失に関する情報は、軍事力や戦争継続能力を推定するための重要な資料になります。ただし、こうした情報は報道機関が公益目的で取材する対象でもあります。軍事に関係する情報を調べたことだけで、直ちにスパイ行為になるわけではありません」

つまり問題は「何を調べたか」だけではない。ロシア当局が、その取材活動をどう解釈したのかである。