「戦時下」だからこそ危険視された
国内向けには、「外国の情報収集活動から国家を守る強い政府」という印象を与える。国外向けには、「ロシアは安全保障問題に妥協しない」というメッセージになる。さらに外国人記者に対しては、「軍事関連取材には大きなリスクが伴う」という警告になる。つまり今回の事件は、防諜活動であると同時に情報戦でもある。
その意味では、拘束そのものだけでなく、拘束をどう演出し、どう見せるかが重要だったのだ。
事件の背景として見落としてはならないのが、日露関係の悪化である。日本は2022年2月のロシアのウクライナ侵攻後、西側諸国と歩調を合わせて制裁を実施してきた。一方のロシアは日本を「非友好国」に指定し、北方領土交渉も凍結状態となっている。こうした状況について松丸さんは次のように分析する。
「日本の対ロシア制裁、ウクライナ情勢、北方領土問題などを背景に、日露関係は緊張しています。このため、通常の取材活動が安全保障上の脅威として解釈されやすくなっている可能性があります」
つまり、平時であれば問題にならなかった活動が、戦時下では安全保障案件として扱われる可能性が高まっているのである。
国家公務員も米紙記者も元海兵隊員も…
今回のような事件は実は初めてではない。
2022年にはウラジオストクで日本総領事館員がFSBによって拘束された。ロシア側は情報収集活動を主張したが、日本政府は否定している。
2023年には米紙ウォール・ストリート・ジャーナルの記者エバン・ゲルシュコビッチ氏がスパイ容疑で拘束された。本人と米国政府は否定したものの、その後有罪判決を受け、最終的には身柄交換で解放された。
さらに元米海兵隊員ポール・ウィーラン氏も長期間拘束された後、身柄交換で解放されている。
「記者という職業や所属組織の社会的信用が、身柄拘束を防ぐ保証にはなりません。安全保障に関係する情報への接触が問題視される可能性があることを認識する必要があります」
プーチン大統領の真のねらいは何なのか。今回の拘束について、現時点の公開情報でロシア側の真意を汲み取ることはできない。
しかし松丸さんによれば、元公安捜査官の視点から見ると、少なくとも3つのねらいが浮かび上がるという。

