「中央アジアの北朝鮮」とも呼ばれるトルクメニスタンに、2023年、新都市「アルカダグ」が誕生した。街の名は「守護者」を意味する前大統領の称号に由来し、宮殿や劇場、馬術施設を備える一方、街路には監視カメラが張り巡らされている。第1期だけで約5200億円が投じられた“スマートシティ”は、誰のためにつくられたのか――。
アルカダグの遠景
アルカダグの遠景(画像=Bayram A/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons)

資源大国なのに食料不足に苦しむ国

白い粉が、真新しい車体の上をふわりと舞う。民族衣装の女性たちが、電気自動車に小麦粉をふりかけている。

2023年6月29日、中央アジア・トルクメニスタンの新都市アルカダグで行われた、街開きの式典での一幕だ。粉をかぶったのは、トルコのレジェップ・タイップ・エルドアン大統領から贈られた車。長寿をもたらすとされる儀式で、車はさらに、悪霊を払うとされる煙でもいぶされた。

式典では、父の後を継いだセルダル・ベルディムハメドフ大統領がテープを切り、居並ぶ長老たちが拍手を送った。騎手が馬術を披露し、参加者は国旗や造花、白い風船を手に行進する。夜は給仕が晩餐の卓を整え、華やかな公演が続いた。

指導者への度を越した崇拝や厳しい検閲、徹底した秘密主義など北朝鮮との共通点は多く、トルクメニスタンはしばしば「中央アジアの北朝鮮」と呼ばれると、北朝鮮専門メディアのNKニュースは書く。人口約760万のこの国は、その砂漠に豊富な天然ガス資源を擁する。それでも独裁体制のもと、国民の大半は貧困の中で暮らしていると、アメリカ議会が出資する放送局のラジオ・フリー・ヨーロッパは伝える。

その国で、第1期だけで33億ドル(約5210億円)を投じて建てられたのが、新都市アルカダグだ。生活のあらゆる面を自動化する「スマートシティ」を謳うが、街開き直後には人も車もほとんど見当たらないと報じられた。一方、街路や住宅棟の周りには多数の監視カメラが設置されている。

「機能より形」を優先した首都

カスピ海に面し、ウズベキスタンやイランなどと国境を接する、トルクメニスタン。この国では以前から、機能より見た目を優先する発想があった。

首都アシガバートでは、空港はその機能を体現するかのように、翼を広げた鳥の形をしている。そして外務省は地球儀、歯科医療センターは歯、中央銀行は巨大な金の延べ棒、国営出版社は開いた本をかたどる。首都の建物の多くは白を基調とし、豊かな緑地帯と美しいコントラストを成す。

非の打ちどころがない外観の陰で、人々の暮らしは置き去りにされた。オランダを拠点とする亡命メディアのトゥルクメン・ニュースは論説で、首都の景観を、文字どおり「機能より形」を優先した結果だと批判した。中央アジア・コーカサス専門ニュースのユーラシアネットが紹介したこの論説は、「その一方で、巨大な歯や本や地球儀の間で暮らす小さな人々の必要を、誰一人として考慮しようとすらしない」と論じる。

その結果、人けや活気のない都市になったとユーラシアネットは指摘し、同じことがこの国で最も新しい都市・アルカダグにも起こりそうだと述べる。