この精神は、商習慣にも表れている。すべてを契約で縛り、不履行だと訴えるような文化は日本にはない。
グローバル化が進み、欧米のやり方が導入されている部分もあるが、国内で完結するビジネスは、発注時に契約書を交わさないことも多い。
人事評価だってそうだ。売上金額など定量的な評価もあるが、上司が面接をした印象だけで決まる会社もあるだろう。欧米企業の人事評価では一般的な「ジョブ・ディスクリプション(職務記述書)」を用いて、タスクを洗い出している企業は、どのくらいあるだろうか。
誰が何をどの程度遂行したのか明確にして評価しているところは、そう多くないに違いない。
だからこそ、転職の際も能力を見極めづらいし、業務を引き継ごうにもやり方が属人的になっていて難しいことがある。
日本だけでビジネスが完結している分野はそれでもいい。しかし、グローバル化が進むなか、その「国内だけで通じる常識」が、足を引っ張る可能性がある。
日本人は、全体的にお人よしなのである。暗黙のルールを、外国の人も守ってくれると思ったら大間違いだ。
ただ、それを全部外国の基準に合わせればいいかというと、そうではないと私は思う。
国内でこれだけ互いの間に信頼が築かれているのは、すばらしいことだ。甘えで根腐れを起こすような組織ではいけないが、このもともと築かれている信頼関係を活かして、クオリティの高い仕事をしていけばいいのだと思う。
※本連載は『おれが浮いてるわけがない。』(五十棲剛史 著)からの抜粋です。