ワーキングメモリはつねに働き続けている

人が何かを考えたり、問題を解いたりするとき、頭の中では「情報を一時的にキープしながら、同時に処理をする」という作業がつねにおこなわれています。このしくみのことを、ワーキングメモリと呼びます。

イメージしやすいのは、頭の中にある「作業机」です。

机の上に広げられる資料の量には限りがあります。そして、たくさんの書類を同時に広げようとすると、どこに何があるかわからなくなり、作業効率が落ちてしまうように、ワーキングメモリも一度に扱える情報の量には上限があります。

スターリング大学のバデリーとヒッチは、このワーキングメモリを「複数の要素が連携して動くシステム」として説明しました。

大きく分けると、言葉や音を扱う部分(音韻ループ)、図形や空間を扱う部分(視空間スケッチパッド)、そしてそれら全体を調整する司令塔(中央実行系)の3つで構成されています。

初めて行く場所への道順を頭の中で確認しながら、同時に「次の角を右に曲がる」と言葉で繰り返しているようなシチュエーションにおいて、人間はこの3つの部分を同時に使っています。

このようにワーキングメモリは、文章を読んで意味をつかむときにも、暗算をするときにも、複数の手順を順番に考えるときにも、つねに働き続けているのです。

問題は、この作業机が意外に狭いということです。

予定や確認事項は、メモに預け断捨離

たとえば、複雑な計算を暗算でやろうとすると、途中の数字を頭の中に保持するだけで机がほぼ埋まってしまいます。すると、「次に何をすべきか」を考えるスペースが残らず、思考が停止に追いやられます。

これはサボっているのではなく、ワーキングメモリの容量が限界に達しているサインとお考えください。

同じことは、仕事でも起こります。会議中に「Aさんの発言内容」「Bさんへの返答」「次のアジェンダ」を同時に頭に入れようとすると、どれかが抜け落ちる。これ、当たり前のことなんです。

マルチタスクが苦手に感じるのも、多くの場合はこの作業机の狭さに起因しています。

この問題を解決する方法としては、頭の外に情報を出してしまうことが有効です。いわゆる、断捨離ですね。

堀田秀吾『科学的に証明された 頭のいい人が習慣にしている 学び方の戦略』(アスコム)
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覚えておかなければならない情報を紙やメモに書き出すと、頭の中の作業机が空きます。ここで書き出すのは、考えそのものではなく、考えるために保持している情報です。予定、途中の数字、確認事項などを外に置けば、「忘れないようにする」ための負担が減り、目の前の判断に力を回せます。

大切なのは、すべてを頭の中で処理しようとしないことです。外に預けられる情報は預け、頭の中には「いま考えること」と「次の一手」だけを残しましょう。すると、思考や判断に使えるスペースが増え、問題の本質に集中しやすくなるのです。

「書き出す」という行為は、単なる備忘録ではなく、ワーキングメモリを解放するための認知的な戦略ととらえましょう。

(※1)Baddeley, A. D., & Hitch, G. (1974). Working memory. Psychology of Learning and Motivation, 8, 47–89.
(※2)Leroy, S.(2009). Why is it so hard to do my work? The challenge of attention residue when switching between work tasks. Organizational Behavior and Human Decision Processes, 109(2), 168–181.
(※3)Ariga, A., & Lleras, A. (2011). Brief and rare mental “breaks” keep you focused: Deactivation and reactivation of task goals preempt vigilance decrements. Cognition, 118(3), 439–443.
(※4)Ward, A. F., Duke, K., Gneezy, A., & Bos, M. W.(2017). Brain drain: The mere presence of one's own smartphone reduces available cognitive capacity. Journal of the Association for Consumer Research, 2(2), 140–154.
(※5)Sweller, J.(1988). Cognitive load during problem solving: Effects on learning. Cognitive Science, 12(2), 257–285.

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