日本が1兆円超を融資するインド初の高速鉄道で、「日本の新幹線」の導入が揺らいでいる。信号は欧州規格、最初に走る車両もインド製となる見通しだ。高市早苗首相はモディ首相と「10年で10兆円」の投資目標を再確認したが、なぜ日印のビジネスは噛み合わないのか――。

「美しい妹」と呼ばれた高市首相

生花のユリと、銀でできた孔雀像が高市早苗首相を迎える。

今年7月2日、インドのニューデリーでナレンドラ・モディ首相と会談に臨んだ高市氏は、モディ首相と互いに「兄」「妹」と呼び合った。

「先ほど『美しい妹』と呼ばれました」。高市氏はそう言って笑みを浮かべる。ブルームバーグが紹介した一幕だ。

共同記者発表に臨む高市早苗首相とインドのナレンドラ・モディ首相
共同記者発表に臨む高市早苗首相とインドのナレンドラ・モディ首相(出所=首相官邸ホームページ)

同行した日本の企業経営者は50人を超えた。インドを最大市場とするスズキの社長も名を連ねている。迎えるインドの熱意も引けを取らず、アダニ財閥は全国紙に歓迎の全面広告を打った。その新聞は、日本の代表団が集う五つ星ホテルのロビーにも届けられた。

もっとも、気鋭の両陣営には肩透かしだったかもしれない。会談で新たな大型投資が決まることはなかった。両首脳は、日本企業などの民間投資による「10年間で10兆円」という対インド投資目標の進捗を確認したが、今回、新たに目標額が上積みされたわけではない。日本企業がすでに投資を見込む額として2兆円を確認したにとどまる。ほか、半導体やアンモニア、月探査、シイタケ栽培まで、日印企業間の100件超の合意も確認された。

それでも、日本はインドを経済安全保障の要と位置づける。中国一国への依存を避けるための、受け皿としての期待でもある。だが、商業面での連携に目を向ければ、インド向け投資はASEAN向けの5分の1にとどまる。

インド高速鉄道の動きを踏まえれば、日印関係は一層憂慮される。日本の円借款で建設されるこの高速鉄道でさえ、日本製車両が発注される前提が揺らぎ始めた。兄と妹という言葉の近さに対し、現実の隔たりは大きい。

期待されているのに伸びない対インド投資

首脳会談では一定の成果もあった。

日本のシンクタンクである地経学研究所の客員研究員で法政大学教授のマニーシュ・シャルマ氏は、今回の第16回日印首脳会談で16項目の成果がまとまり、経済安全保障、AI、エネルギー強靱性に関する3文書が採択されたと説明する。

日本企業の関心も、確かにインドへ向いている。政府系金融機関の国際協力銀行が2025年12月に公表した調査では、製造業の6割超が今後3年間の有望な事業展開先にインドを挙げた。インドは4年連続で1位となった。

だが、期待の大きさに比べ、実際の投資額は小さい。10兆円という目標は、前年のモディ氏の訪日で日本が約束したものを改めて提示したにすぎず、今回上積みされたわけではない。

2008年の日本の直接投資は、ASEAN向けが63億ドル(約9950億円)、インド向けが56億ドル(約8850億円)とほぼ並んでいた。

ところが2024年には、ASEAN向けが287億ドル(約4兆5300億円)に急増した一方、インド向けは53億ドル(約8370億円)にとどまった。ASEAN向けはインド向けの5倍を超える。いずれも、インドのシンクタンクCSEP(社会経済進歩センター)のブログで、研究者のチャンドラー・コンプトン氏がジェトロの統計をもとに示した数字だ。