重視された「メーク・イン・インディア」

信号システムでは、決着が首脳会談の1年余り前についていた。2025年6月17日、ドイツのシーメンスはある発表を行った。インド初の高速鉄道の信号・通信システムを、インドのDRアグラワル・インフラコンが主導する企業連合が受注したとの内容だ。

発注元はインド国家高速鉄道公社で、契約額は約410億ルピー(約660億円)にのぼる。連合には独シーメンス・モビリティとインド法人シーメンス・リミテッドも名を連ねる。シーメンス・リミテッドの取り分は約123億ルピー(約197億円)だ。

採用された信号方式は欧州列車制御システム(ETCS)のレベル2で、時速350キロでの運行に対応し、すでに50カ国超で導入されている。工期は54カ月、その後の保守は15年に及ぶ。

シーメンス・リミテッドのスニル・マトゥール最高経営責任者(CEO)は、この事業がインドでの現地製造を優先する「『メーク・イン・インディア』へのコミットメント」を反映していると語る。

受注に結びつきにくい1兆円超の円借款

日印協業が難しい3つ目の要因は、協業の前提が覆される点にある。

事業費を支えるのは、日本の政府開発援助(ODA)である円借款だ。円借款を供与したからといって、必ず日本企業が受注すべきだということではない。しかし、インターナショナル・レイルウェイ・ジャーナルが取り上げるように、2015年の日印覚書では、車両と信号システム、運行管理センターを日本から調達すると定めていた。その前提が崩れつつある。

安倍晋三首相(当時)とナレンドラ・モディ首相
2017年9月14日、ムンバイ・アーメダバード高速鉄道プロジェクトの起工式に出席した、安倍晋三首相(当時)とナレンドラ・モディ首相(画像=首相官邸/GODL-India/Wikimedia Commons)

国際協力機構(JICA)は2023年12月、第5期として4000億円の借款契約をインド政府と結んだと発表した。単一の事業に対する借款契約としてはJICA史上最大で、2017年以降の累計供与額は、2023年12月時点で1兆500億円にのぼる。

金利は本体工事、コンサルティング業務ともに年0.1%と極めて低い。当初計画では、円借款で事業費の81%を賄う想定だった。償還期間は50年に及び、うち15年は元本の返済を据え置く。

JICAによると、日本側の支援は金銭面にとどまらない。事業化調査や詳細設計、日本での研修、駅周辺の開発、新幹線の専門家の派遣まで、事業主体のインド国家高速鉄道公社と組んで担ってきた。建設工事だけで、2024年にインドで9万人超の雇用が生まれたとコンプトン氏は指摘する。