10年経っても支払われない約410億円
4つ目の要因が、事業リスクだ。契約違反が起きても仲裁判断が履行されず、資金の回収に長い年月を要しかねない。
過去を振り返れば、高速鉄道以外にも、交わした契約がその通りに履行されない事例が複数存在した。
ブルームバーグによると、2009年、NTTドコモはインドの通信会社タタ・テレサービシズに出資した。契約には、撤退時に取得額の半額でタタ・テレサービシズ株を売り戻せる条項を盛り込んだ。
だが、熾烈な価格競争を受け、タタの採算は悪化した。2014年にドコモが売却を決めた後も、代金が支払われることはなかった。
2016年6月、ロンドン国際仲裁裁判所(LCIA)はタタ財閥の持ち株会社タタ・サンズに11億7000万ドル(約1850億円)の支払いを命じた。
それでも支払いは実行されなかった。インド準備銀行(中央銀行)が、外資は「公正価値」でしか撤退できないとする規則を盾に支払いに反対したためだ。代金がドコモに渡るには、2017年4月28日のデリー高裁の判決を待たねばならなかった。
ドコモのほか、第一三共もインド企業の買収で痛手を負っている。2008年、インドの製薬大手ランバクシーを買収した際、ランバクシーが米当局の調査を受けている事実を、インド側の売却元が隠していたとされる。
インドの法律専門ニュースサイト、バー・アンド・ベンチによると、シンガポールの仲裁廷は2016年、256億2000万ルピー(約410億円)の支払いを命じたが、10年経った現在でも支払いは実現していない。
一度こじれた取引は、民間同士でも容易には解きほぐせない。
地場企業では代替できない中国製部材
日本とインドは今、経済安全保障の分野で互いに歩み寄ろうとしている。そこで障壁になるのが、5つ目の要因である対中規制の副作用だ。
AP通信によると、モディ氏は7月2日の会談後、「インドと日本は経済安全保障を両国共通の安全保障上の利益と位置づける」と述べた。両政府はこの分野で共同ロードマップも取りまとめている。
コンプトン氏によれば、インドは安全保障を理由に対中規制を強め、それが日本企業の投資をためらわせてきた。同氏は、部品点数の多い製品を組み立てる日本メーカーにとって、中国製の部材はインドの地場企業ではまず代替できないと指摘する。
さらに、インドは2014年から24年にかけて、中国製品を対象に185件のアンチダンピング(AD)調査を実施し、鉄鋼や機械、化学品にAD関税を課した。どれも日本の製造現場で日々使う素材や機器だ。
経産省所管のジェトロが2023年度に実施した調査では、インドに進出する日系企業の76.4%が、「品質・技術要件を満たす供給者がいない」と答えている。ASEAN諸国でビジネスを展開する日系企業では、この割合は52.2%にとどまる。

