中国各地で、歴史的な街並みを模した観光施設が造られてきた。約530億円を投じた「大庸古城」では、2024年上半期のチケット販売が1日平均約13枚にとどまった。なぜ巨額の資金がこうした開発に注がれたのか。海外メディアは、本物の歴史的街並みや住民の暮らしを壊してまで進められた「古都づくり」の実態を報じている――。
紫禁城
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観光の目玉でつくった「古風な街」に、人がいない

城壁にぶら下がる赤い提灯はどれも色あせ、一部は破れている。

東門を抜けると、チケットの販売機は布に覆われ、すっかりほこりをかぶった状態だ。営業中の店といえば、ミルクティー店1軒と、あとは小さなコンビニが数軒だけ。ここ中国湖南省・張家界市の観光地「大庸古城」は、大規模な開発にもかかわらず、近年はひとけのない状態が続いている。

中国メディア・澎湃新聞(ザ・ペーパー)の記者が現地を訪ねると、週末にもかかわらず、午前中にすれ違った観光客は10人に満たなかったという。現地ルポの英訳を、中国ニュースレターのバイグアンが2024年12月に掲載している。

大庸とは、2200年以上前に街が築かれた当時から1994年まで使われていた、この地区の古い呼び名だ。民家の密集していた市街地を再開発し、それまでなかった石畳の小道や楼閣を建て、王朝時代の街並みをほぼゼロから新造した。古城は城というよりも、城壁に囲まれた歴史的な都市を指す。観光地の大庸古城が、こうして2021年に完成した。

中国国営英字オンライン誌のシックス・トーンは、総建設費が22億元(約530億円)を超えたと伝えている。ところが、巨額の投資に対し、2024年上半期のチケット販売数は2300枚にとどまった。1日あたり13枚に満たない。

各地の地方政府は、文化・観光を新たな成長の柱として、往時の街並みを再現した街を競うように建設した。だが、その多くは訪れる人のない不良資産となり、地方財政を圧迫している。

2022年11月19日、張家界市の大庸古城無形文化遺産街区を散策する観光客。中国湖南省張家界市で19日、第1回湖南観光発展カンファレンスが開かれた。(長沙=新華社記者/陳思汗)
写真提供=新華社/共同通信イメージズ
2022年11月19日、張家界市の大庸古城無形文化遺産街区を散策する観光客。中国湖南省張家界市で19日、第1回湖南観光発展カンファレンスが開かれた。(長沙=新華社記者/陳思汗)

利益度外視、ゼロから「古く見える街」を興す

大庸古城のような人工的な歴史地区は、中国で「仿古(ファングー)」と呼ばれる。「過ぎ去った時代の様式を模倣する」という意味だ。

歴史の一部になりきる体験が人気を博している。例えば、用意された何百着という漢民族の伝統衣装「漢服」から1着をレンタルし、着たまま街をそぞろ歩く。CNNによると、平均約15ドル(約2400円)で借りることができ、10ドル(約1600円)を足せばメイクや装飾品、プロによる撮影と後編集までついた、フルパッケージになる。

確かに需要はある。今年6月、中国文化観光省直属の研究機関、中国旅游研究院で国際研究所長を務める楊勁松(ヤン・ジンソン)氏は人民日報に、「消費者は情緒的価値に対してますます積極的に対価を払うようになっています」と語った。「没入型の体験を通じ、より深い関与や文化的意義を求めているのです」

地方政府はこの流れをビジネスチャンスと捉え、古風な村や街をゼロから建設している。真新しい壁は大量にツタを植えて隠し、屋根瓦は機械でわざと砕いて古びさせる。中国の建材業界には、石材や木材が長年の風雨にさらされたような質感を再現する「仿古塗料」という製品分類まである。

日本でも美観地区など、昔の様式に沿った建築基準を設けるところはある。中国の場合はこれと異なり、場合によっては歴史と無縁の箇所に、古く見える偽物の街をゼロから興すことがある。その目的も、観光事業として採算ラインに乗せることではなく、利益度外視で役人が名を立てることにあるという。

中国国営英字新聞のチャイナ・デイリーの2024年12月の論評によると、観光向けに開発・改修された歴史地区は建設中を含め、全国で2800カ所を超える。