水郷から1300キロの場所にできた「ニセ水郷」
万里の長城の司馬台長城の麓に、「古北水郷」という街がある。
運河が流れ、提灯に照らされた茶屋や瓦葺きの家々が立ち並ぶ。長江の南側を指す「江南」の水郷を思わせる風景だが、江南から約1300キロメートル北にあり、周囲にこうした水郷はもともと存在しない。
政府系企業が2014年に完成させた、歴史のない新しい街だ。CNNによると、6億ドル(約960億円)が投じられた。北の長城と南の水郷という人気の観光地を1カ所で巡るコンセプトだ。
事業としては成功している。香港系旅行予約サイト「Klook」では、2026年7月時点で万里の長城とセットにした日帰りツアーの予約が1万件を超え、2200件のレビューで平均4.9点の評価を得ている。
大半の観光客は、実際に歴史ある街かどうかをさほど問題にしていない。だが、ツアー申し込み時点で正直な説明がほしいと望む声もある。
タイからの交換留学生、ミニヤダ・チョーティチャイチャリンさんは4月に古北水郷を訪れ、工芸体験やアーチェリー、温泉、舟遊びを次々にこなす2時間のツアーを楽しんだ。しかし、街が新しく造られたとの事前の案内はなく、知ったのは現地に着いてからだった。
「再現された街でも気にならない。でも、だまされた気分にならざるを得ない」とCNNに語る。
本物の歴史都市を壊して、ニセモノを建てた
場合によっては元来の歴史ある街を取り壊し、その跡地に人工的な街を造成することもある。
2008年、北京の西約250キロメートルに位置する山西省大同市。石炭産業で栄えたこの都市は、1982年に中央政府が初めて選定した「国家歴史文化名城」のリストに名を連ねた。歴史的な街並みが残る都市を国が選定し、保護の対象とする制度である。
その年に就任した耿彦波(ゲン・イエンボー)市長は、経済の軸を石炭から観光へ移すべく、市中心部の全面的な再開発に乗り出す。保護対象となったはずの市の中心部では、3平方キロメートル以上が巨大な工事現場と化した。
こうして生まれた再開発後の街並みとは、どのようなものか。中国都市専門ニュースレターのシノシティーズは2024年の夏、大同を訪れている。商店街には趣ある歩道橋が架かるなど風情を感じさせる一方、再建部分には「中華帝国版ディズニーランド」のような安っぽさが漂っていたという。

