店舗数拡大も「実情は苦しかった」

しんぱち食堂は2012年、新宿に1号店を出店。代表取締役社長・江波戸千洋氏の「商品で勝負したい」という方針の下、宣伝にはお金をかけなかったが、口コミで人気が広がった。コロナ禍明け以降はインバウンド客の増加も後押しし、投資会社の支援を背景に店舗数を拡大。地方にもフランチャイズ店を展開するようになった。

店舗数の拡大は一見すると、売り上げも伸びて順調に思われる。しかし北氏によると、出店を加速させたい江波戸氏にとっては「苦しい時期」だったという。

「店舗を増やすには投資が必要です。しかし投資ファンドはどんどん出資するわけではありませんから、銀行借り入れをしなければならないが、銀行も簡単には貸してくれない。また立地開発も専用の部隊があるわけではない。成長を加速させていくことが難しい状況でした。しんぱちが次のステージに行くために、新たな挑戦が必要な時期に入っていました」(北氏)

すかいらーくホールディングス常務取締役CFOの北義昭氏
撮影=プレジデントオンライン編集部
すかいらーくホールディングス常務取締役CFOの北義昭氏

そこで、すかいらーく側からM&Aを申し出たというのが、株式取得の経緯だ。

では、すかいらーくが110億円をかけてまでしんぱち食堂を買収したかったのは、なぜか。

北氏は「唯一無二の価値」を理由に挙げた。

「身がふわふわでジューシー」のワケ

日本の社会が変化し、夫婦共働きや単身の世帯が増えた。調理に手間暇がかけられなくなり、焼き魚も今や、家庭料理の定番でなくなりつつある。しかし健康志向の高まりもあり、干物や焼き魚など和食メニューへの社会的ニーズは、むしろ大きくなってきている。

そしてしんぱち食堂の「手軽に食べられるおいしい焼き魚」は日本食の伝統文化であり、さらに「日常的に食べたい」という今のニーズの受け皿になり得ると北氏は考えた。しかも、商品のクオリティには驚かされたという。

ほっけ定食。ご飯と味噌汁、小鉢が付く
写真提供=すかいらーく
ほっけ定食。ご飯と味噌汁、小鉢が付く

「まず注文して10分程度で出てくる。そしてこれが大変おいしいわけです。そんなに早く出せると聞けば、パサパサしていたり固かったりするものを思い浮かべますが、身がふわふわでジューシー。一体どうやっているのか、と不思議に思いました」(北氏)

早く提供できるのに、なぜおいしいのか。

秘密は、独自開発の炭火焼機にある。通常の半分の時間で中まで焼き上げるため、水分が飛ぶことなくふっくらとジューシーに仕上がるという。

独自開発の炭火焼機。通常の半分の時間で中まで焼き上げる
写真提供=すかいらーく
独自開発の炭火焼機。通常の半分の時間で中まで焼き上げる

素材も厳選されており、とくに三大定番メニューのさば、鮭、ホッケは、一定の重量とサイズのものを指定して仕入れる。