「認識」と「記憶」は別モノ
倍速視聴を理解するうえでまず知っていただきたいことは、入ってくる情報を認識することと、その情報を理解して記憶すべきかどうかを判断することは別の問題だということです。
一般的な知覚情報、例えば視覚や聴覚の場合、入ってきた情報刺激が大脳皮質の視覚野や聴覚野に到達するとまず「識別」という処理がなされます。「識別」は入ってきた情報を区別する処理(入力)で、感覚野で行われます。
その後、識別された情報は連合野に送られ、記憶に照らし合わせて特定する作業(照合)が行われて「認識」という処理がなされます。「認識」に要する時間は0.1〜0.2秒と言われています。
つまり、ものを見たり聞いたりしてから「見えた」「聞こえた」と認識するまでに0.1秒以上かかってしまうのです。
さらにそれらの情報が前頭前野に到達して内容を「理解」する(統合)までの時間は、およそ0.5〜0.8秒(対象の情報の複雑さにもよる)。理解した情報が記憶されるのにはもっと時間がかかります。
対してヒトの知覚はとても優れていて、時間分解能(例えば2つの異なった音を識別する場合の最短時間)は0.03秒。違いの検出という点では非常に優れています(図表1)。
知覚のスピードと理解の正確さには、トレードオフの関係があります(図表2)。
反応を速くしようとするほど不正確になり、正確にしようとするほど遅くなるのが、私たちの脳の特性なのです。
「マスキング効果」と「サブリミナル効果」
この知覚と認識の情報処理速度の差によって生まれる現象の例として、「マスキング効果」があります。
電車に乗っているとき、窓の外にちらっと見えた看板が何の看板だったかがわからないという経験をしたことがあると思います。見えたことはわかっても、次の視覚情報(この場合は景色)で上書きされてその内容まで認識が及ばない状態です。
さらに、「サブリミナル効果」という現象があります。
アメリカで、ある映画が投影されているスクリーンの上に「コカコーラを飲め」「ポップコーンを食べろ」というメッセージが書かれたスライドを1/3000秒ずつ5分間にわたって繰り返し映したところ、コカコーラの売上は18.1パーセント、ポップコーンの売上は57.5パーセント増加したという結果が出ました。
知覚情報があまりにも短いと、知覚したことさえ認識できないにもかかわらず、無意識下では脳に情報がインプットされてしまうという現象です(この現象をスポーツや格闘技系のゲーム、パイロットなど瞬間的な判断が必要な状況のトレーニングに使った有効活用法がありますが、残念ながら倍速視聴の速度ではその効果は見込めません。認識速度の数十倍のインプットの場合に、自分の意思とは関係ない行動に結びつく結果になります。)
なお、この効果を広告で使うことは現在アメリカや日本では禁止されています。


