島滞在の夜、天井から落ちてきた“モノ”

私は、大学4年生のとき、この宮古島の北のはずれにある狩俣という集落で、3カ月半ほど、空き家を借りて住んでいました。民俗学の卒業論文を書くためです。

狩俣には、古くから伝わるたくさんの精霊についての伝承(言い伝えなど、人から人へ、世代から世代へと伝達・継承されるもの。また、伝達・継承の行為自体も伝承と呼ぶ)が存在し、またその精霊をカミとして祀る秘儀的な祭りが行われてきました。

さらに、カミと交信することができると人びとから信じられてきたシャーマンも暮らしていました。こうした精霊、カミ、祭り、シャーマンといったものについての信仰を、「民間信仰」と呼びます。私は、この民間信仰の世界を探り、卒論を書くための住み込み調査を行ったのです。

住み込み調査は、1989年7月1日にスタートしました。狩俣に着いて空き家に住み始めた日の夜、8時過ぎのこと。畳の上で横になっていると、天井から何かがバタンと落ちてきました。古い家だから何か落ちてきたのかな、と思って目をやると、相当に長いニョロニョロとしたものが座敷の隅のほうを這っています。

ヘビでした。悲鳴こそあげなかったものの、即座に家を飛び出しました。どうしたらよいか混乱しましたが、とりあえず、集落の中央にある購買店(共同売店)に駆け込んだのです。購買店には、店先にいすを出して酒盛りをしている30代の人たちが何人かいたので、彼らにいま起こったことを話しました。

ヘビ
写真=iStock.com/Bahadur Ali
※写真はイメージです

すると、その中の一人が、「それは大変だ。きょうは、うちに泊まればいい」と言ってくれ、急きょ、その人のお宅に避難することに。私は、大急ぎでヘビのいる家から荷物を持ち出し、その人の家に向かいました。

「片目のヘビはカミである」という神話

家族のみなさんに挨拶をし、ヘビが落ちてきた話をしたところ、70代のお父さんは、「そのヘビの目は片目だったか、両目だったか」と私に聞いたのです。仰天していてヘビの目は見ていなかったため、わからないと答えましたが、お父さんは、「もしも片目だったら、そのヘビはカミである。両目だったら普通のヘビである」と言い、狩俣の創世神話を語ってくれました。それは次のような話です。

狩俣では、太陽の神様を“ンマティダ”と呼ぶ。“ンマ”はお母さんで、“ティダ”は太陽の意味だ。大昔、まだ人間がいない頃、ンマティダという女神が、天から狩俣のフンムイ(大森)という森に降りて来た。そして、住むのにふさわしいところを見つけようと歩き始めた。

しばらくすると、羽がぬれたカラスが飛び立つのが見えたので、そこに行ってみた。すると、そこには泉があった。水は生きていくために欠かせないので、ンマティダはそのすぐそばに住むことにした。

しばらく暮らしていると、ある晩、若い武士がやって来て、以後、毎晩、通って来るようになり、やがてンマティダは身ごもった。「いったいあの武士はどこからやって来るのだろう」と疑問に思ったンマティダは、ある日、麻の糸を針につけて、それを相手の武士の髪の毛に刺した。

武士が帰ったあと、その糸をずっとたどっていくと、ンマティダが発見した泉の中に続いている。そこで中を見てみると、そこにはヘビがいて、片方の目を糸のついた針で刺されていた。武士の本当の姿は、なんとヘビだったのだ。