待てば安くなるマンションの冬の時代
当時の取材ノートを読み返すと、新興のマンションデベロッパーからの内定取り消しにあった大学生のコメントを取りに行ったり、資金繰りに窮して事業再生ADR(裁判外紛争解決)手続きを申請した企業の社長を取材したり、雑居ビルの入り口で債権者集会の参加者を捕まえたりと、後ろ向きな取材が多かった。
今では考えられないことであるが、財閥系の大手デベロッパーですらモデルルームの集客に苦戦しており、客寄せのために来場者にクオカードを配るほどだった。取材先のデベロッパーの広報から冗談交じりに「安くするから買ってくださいよ」と言われたことを覚えている。
こうした状況下で、有利なのは買い手だ。「マンション価格は新築の時点がピークで、待てば待つほど安くなる」と公然と口にする専門家もいたし、実際、その通りだった。
2011年3月に発生した東日本大震災も、マンション市場に冷や水を浴びせた。消費者心理の冷え込みで住宅購入を様子見する姿勢が強まったほか、人気住宅地である千葉県浦安市で大規模な液状化現象が発生し、道路や上下水道などのインフラに多大な被害が生じたことも人々に持ち家の災害リスクを認識させた。
後に多数の億り人を生んだ東京の湾岸エリアも、被害がほぼ出ていなかったにもかかわらず、浦安市と同じく埋め立て地であるということで風評被害が発生し、売れ行きが鈍ったほどだった。少なくとも当時は、マンションが資産であるという考え方は一般的ではなかった。
「賃貸は身軽」の考えが仇となる
今では見向きもされない「多額の住宅ローンを背負ってマンションを購入するより、身軽な賃貸のほうが賢い」といった言説も、むしろ合理性がある考え方だと受け入れられていた。
しかし、この「合理的」な考えは、価格上昇局面において裏目に出た。
かつて5000万円で売っていたマンションが1億円を超えて取引されるようになり、資産形成という観点では賃貸派と購入派との間で取り返しのつかない差ができた。
足元の金利上昇でマンション市況は調整局面に入ったとされるが、大手デベロッパーの幹部は「建築コストが上昇しており、かつてのように5000万円で新築マンションを供給できる時代に戻ることはありえない」と断言する。
大手企業を中心に賃上げが進んでいるとはいえ、不動産価格は賃金の上昇を遙かに上回るペースで上昇した。買い場を逃した人々はもちろん、これから住宅を購入しようとする現役世代にとっても、厳しい状況が続く。
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