「賃貸vs持ち家」論争に決着
最近はめっきり聞かなくなったが、かつてマンションを巡っては「賃貸と購入、どちらが得か」という議論があった。日本で住宅を購入する場合、ほとんどの人は住宅ローンを組んでマンションを購入するが、30年以上にわたって巨額の負債を返済し続ける必要がある。
その間、価格下落や金利上昇、離婚、病気といった様々なリスクは個人が背負うには大きすぎる。その点、ライフスタイルの変化に応じて住む場所を気軽に変えることができる賃貸のほうが現代的だ――。これが賃貸派の主張だった。
2005年に発覚した姉歯建築設計事務所による構造計算書偽造問題により、マンションを購入した人々が補償も受けられずに二重ローンを抱えることになった姿が繰り返し報道されたことも記憶に新しく、「マンションを購入することはリスク」という意識は幅広く共有された。
もっとも、今になって振り返ってみると、こと金銭面に限れば、ほとんどの人にとって、東京では賃貸ではなく購入が正解だったと断言できるだろう。それほどまでに、近年の東京におけるマンション相場の上昇は強烈だった。
大企業の働き盛り社員でも家が買えない
不動産経済研究所によると、25年に東京23区で販売された新築マンションの平均価格は1億3613万円。首都圏まで広げても、9182万円となる。
厚生労働省の賃金構造基本統計調査から計算すると、東京都で社員数1000人以上の大企業で働く35〜39歳の平均年収は賞与込みで約786万円。比較的恵まれた立場の人ですら、23区では年収の17倍、首都圏でも12倍近くとなる。「働いても家が買えない」というのは、多くの人々の実感に即したものだろう。
既にマンションを購入した人々が多額の含み益を抱える一方で、これから家を購入しようとする世代は手が届かなくなってしまったのはなぜか。歴史的な経緯を振り返るために、時計の針を少し戻したい。
今や価格上昇が当たり前となっている東京のマンションだが、常に上昇気流にあったわけではない。むしろ、10年以上続く相場上昇の前には「冬の時代」があった。
私が日本経済新聞の記者としてはじめて不動産を担当した2010年頃は、まさにこうした冬の時期だった。2003年から2007年頃にかけて、ファンドバブル期と呼ばれた時期に世界中のマネーが日本の不動産に流入したが、オフィスに比べて住宅市場への影響は限定的だった。
そこに、2008年に米投資銀行リーマン・ブラザーズの破綻に端を発した世界金融危機が直撃した。


