相続で得た財産には相続税がかかる。では、その財産を年金として受け取ったら、所得税もかかるのか。この問題が争点となった重要な裁判がある。青山学院大学教授で税法を専門とする木山泰嗣さんの著書『[新版]分かりやすい「所得税法」の授業』(光文社新書)より、一部を紹介する――。
TAXの木製ブロックと虫眼鏡
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給料から引かれる税金はだれの税金なのか

本書では、個人が得た所得に課せられるのが「所得税」で、法人が得た所得に課せられるのが「法人税」だという説明をしてきました。ただし所得税法は、法人が納税義務を負う場合として源泉所得税を定めています。源泉所得税については、法人でも納税義務を負います。これは所得税法に規定があるからでした。

といっても法人が負うのはあくまで、従業員などへの支払いの際に源泉所得税を徴収して納める義務です。本来の納税義務は、あくまで法人から給与などの支払いを受けた従業員など(個人)が負っています。

法人は従業員などに給料などを支払っただけですので、そもそも法人は何も所得を得ていません。したがって法人が得た所得に対する課税ではないのです。ここに「相続税はどうなんだ?」という視点を入れると、話が少し複雑になります。

相続税は、「相続税法」という法律に定められています。単純にいえば、人の死亡(相続)によって、相続人が取得した財産について課税をするのが相続税ということになります。民法には、「相続は、死亡によって開始する」とあり(民法882条)、「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する」と規定されています(民法896条本文)。

そして、相続税法2条1項は、相続税の課税財産の範囲について、次のように定めています。

遺産じゃないのに課せられるお金

【相続税法2条(相続税の課税財産の範囲)】
第1条の3第1号又は第2号の規定に該当する者については、その者が相続又は遺贈により取得した財産の全部に対し、相続税を課する。

「第1条の3第1号……の規定に該当する者」というのは、相続税の納税義務を負う人(相続税の納税義務者)のことで、相続税法1条の3第1号には「相続又は遺贈……により財産を取得した次に掲げる者であつて、当該財産を取得した時においてこの法律の施行地に住所を有するもの」と規定されています。その者は、「個人」です(同号イ及びロの各かっこ書き)。

要するに、相続によって(そのときに日本に住所がある)「個人」が得た「財産」に対して、相続税は課されるわけです。もっとも、相続税法には「みなし相続財産」という規定もあります。

民法でいう「相続財産」にはあたらず、相続人の間で遺産分割の対象にはならない財産であっても、相続によって得た財産で「みなし相続財産」とされているものについては、相続税が課されるのです(相続税法3条)。

「みなし相続財産」の具体例には、被相続人の死亡により、生命保険契約に基づき、「受取人」である相続人が保険会社から保険金の支払いを受ける場合で、保険料を被相続人が払い込んでいたときなどがあります(相続税法3条1項1号)。