実際にあった保険がきっかけの二重課税裁判
この規定の適用をめぐり、2010年(平成22年)に、新聞などのニュースで報道された最高裁判決があります。それは「長崎年金訴訟」「年金二重課税事件」「生保年金事件」などと呼ばれている事件です。
この事件の概要は次のとおりです。
保険会社が約40年以上前から扱っていた生命保険で、年金の特約がついた商品(年金特約付き生命保険)がありました。被保険者が死亡したときに、受取人は生命保険金(4000万円)を受け取ることができます(ここまでは通常の生命保険と同じです)。それに加えて、特約部分がありました。
受取人の選択により、相続が発生した年から毎年230万円というかたちで、10年にわたり年金を保険会社からもらえる特約がついていたのです(「選択により」と書きましたが、年金部分を一括でもらうこともできるプランでした。一括払いの場合は、年金総額2300万円ではなく、予定利率で割り引いた2000万円でした。
こちらを選択した場合、4000万円の保険金と2000万円に相続税が課されるだけで、所得税は課されません)。
40年にわたる国税の勘違いを正した最高裁
これについて、国税当局は、相続開始によって年金を受給できる権利(年金受給権)に対しては(みなし相続財産として)「相続税」が課され(230万円×10年×60%=1380万円部分)、相続が発生した年から毎年もらう年金(毎年230万円)についても、それぞれ雑所得として「所得税」が課されるという考えをとっていました。
そして現実に、過去40年にわたり、そのような取扱いがされていたのです(実際には、当時の所得税法207条の規定に基づき、保険会社が年金を支払う際に源泉徴収をしていました)。しかし、最高裁判所は、年金受給権と最初に受け取る年金については、同じ経済的価値に対して「相続税」と「所得税」をダブルで課す「二重課税」にあたると考えました。
相続税と所得税の二重課税を排除した所得税法9条1項17号(当時15号)の規定は、「経済的価値」が「同一」といえる場合の二重課税を排除した趣旨だと解釈したためです(最高裁平成22年7月6日第三小法廷判決・民集64巻5号1277頁)。

