二度と同じ経験はしたくない

もめにもめた結果、株を買い取るという形で、事業に影響がないように収めたものの、庸一さんは事業を継続させるために、実の母親と縁を切ることになったのだ。どれほど苦渋の決断だったことだろう。

「あの争いを見ていたので、私が会社を継ぐ時には、我々家族5人、二度と同じ経験はしたくないという共通の危機感を持ち、事業を続けるにはどうすればいいかの一点で準備を進めてきました。結果、私が100%の株を受け継ぐことに姉も妹も同意して、スムーズに事業承継を実現できました」

事業継承で“揉める家族”を減らしたい

2026年1月、熊谷さんはファミリー企業に特化した、事業承継コンサルタント事業を新たに立ち上げた。

「ビニールカーテンを納める工場など取引先のお客様から、『どうやったら、そんなに事業承継がうまく行くの?』と、日頃からご相談いただくことがあり、世の中にもっと広く伝えれば、揉めるご家族を減らせるんじゃないかと思い、事業を立ち上げました」

ファミリー企業に特化したのは自身の経験と、ファミリー企業ならではの特質があり、ファミリーだからこそ、第三者が入らないと解決が難しいという確信があるからだ。

熊谷社長
撮影=プレジデントオンライン編集部
ファミリービジネスの事業継承について相談にのるコンサル事業をスタートさせた熊谷社長

「ビジネスパートナーである前に、家族じゃないですか。ビジネスパートナーなら、社長が他の社員より待遇がいいことを普通に納得しますが、家族の場合、感情が優位になってしまうので、『兄さんだけ、ずるい』になってしまう。事業継続のための経営課題が、家族の感情問題になってしまい、感情が優位になると、やっぱり揉めるんです。そうならないようにどうやって切り分けるか、そこは第三者じゃないと難しいわけです」

痛感するのは、創業者の多くは事業がうまくいっていれば、自分が死んだ後も事業は継続していくと信じていることだ。だが、亡くなった途端、親族間で骨肉の争いとなることが非常に多い。かつての熊谷家がそうだったように。