都心に「使われない空間」が増えていく
都心や利便性の高いエリアは、本来、都市圏全体の成長の源となる機能や、暮らしを支える都市機能の立地を促進すべき場所です。もちろん、そうしたエリアでも、オフィス、商業施設、住宅がバランスよく配置されることは重要ですし、職住近接というニーズも無視できません。ここで言いたいのは、都心や駅前で住宅供給を行うこと自体が問題ということではありません。
事業者側には、開発余地の縮小による土地取得費の上昇、建設費の高騰、金利上昇リスクがあり、できるだけ高価格帯で早く売り切りたいという事情があるのも事実です。とはいえ、現在の都心部や駅前・駅近の住宅市場では、あまりにも分譲マンション主体の開発に偏っているように思えてなりません。
もし今後も、都心や利便性の高いエリアで建てられる区分所有マンションの相当部分が転売、資産保有、資産退避を目的とする購入者に取得される状況が続けば、住宅の数は増えても住民は増えず、都市にとって重要な拠点エリアで使われない空間ばかりが増えていくことになります。
日常的に消費する住民や来街者が減れば、徒歩圏にあった手頃な価格帯のスーパーや店舗などの生活利便施設が撤退したり、利用者減によってバス路線の廃止対象になったりする可能性があります。そうなれば、徒歩圏内の暮らしの基盤が弱まり、すでに住んでいる住民のQOL(生活の質:Quality of Life)の低下にもつながっていきます。
非居住化は誰も気づかないままに進む
多くの建物が建ち並ぶ都心や駅前といったエリアだから大丈夫だろうと考えがちですが、戸建ての空き家と違い、マンションは外からだけでは実態が見えにくいため、誰も気づかないまま静かに非居住化が進んでいくのです。こうした地域全体への影響を防ぐためにも、都心や利便性の高いエリアにある貴重な住宅ストックがどのような属性の世帯に取得され、どのような居住実態を生んでいるのかまで含めて見ていく必要があると痛切に感じます。
そしてもう一つ、都市圏全体、国土全体にとって見落としてはいけない重要な点があります。それは、都心や利便性の高いエリアの貴重な土地や空間が適切に使われない状況は、住宅価格や地価を押し上げるだけでなく、都市の成長に欠かせないオフィス、商業施設、病院などが立地できる余地を奪っているという点です。
もっとも、開発計画の段階で、完成後の住宅を誰が、どのような目的で購入・所有し、どのように使うかを正確に予見することはできません。そのため、建築規制だけで対応するのは難しいのも事実です。だからこそ、少なくとも拠点エリアにおいては、住宅の「売り方」や、「居住・非居住」に関わる税制の見直しといった領域で対応を検討する必要があると考えています。この点は、終章で詳述します。


