2019年、世界最高のブレンダー賞を受賞
ウイスキーは、寝かせた樽から直接、瓶詰めされて製品になるわけではない。同じ場所で熟成された樽のものでも、個性が違ってくる。いろいろな樽の原酒をブレンドすることで、ひとつのブランドとしての味と風味に仕上げていく。
このブレンドを担当するブレンダーの腕がウイスキーの善し悪しを左右するし、ひいては売れ行きにもつながる、重要な役割である。その役を果たしているのも、肥土社長である。
秩父のブレンダーは現在3人。サントリーは7人ほどだというから、会社の規模を考えれば手厚い。それでも「質を上げるにはブレンダーを増やしたい」と、若手をさらに3人育てる計画だ。
父親の原酒をバーに持ち込んでプロであるマスターの意見を聞くことで、肥土社長は製品に自信を深め、製品化につなげていった。それ以降もバーまわりは欠かさず、そこから貴重な意見を汲み取り、ブレンドに活かしていったのだ。
肥土社長は、世界的なスピリッツの品評会のひとつである「ISC(インターナショナル・スピリッツ・チャレンジ)」において2019年、世界の洋酒界で最高のブレンダーに贈られる「マスター・ブレンダー・オブ・ザ・イヤー」を獲得している。ブレンダーとしての肥土社長の手腕が、イチローズモルトの人気を支えていることはまちがいない。
「ブレンドのレシピをつくったり、テイスティングは私の仕事ですが、そのレシピで実際にブレンドするのは、いまは若手の仕事です」と、肥土社長。
ウイスキーの供給量が増えていけばブレンダーの数も必要となってくるし、そのために若手の育成は不可欠である。それができてこそ、企業としての存続も発展もある。世界最高のブレンダーとして認められた肥土社長は、それも忘れてはいないのだ。
輸入ウイスキーとは「対抗しない」
輸入ウイスキーの人気ブランドと、どう戦うのか。そう訊ねると、意外な答えが返ってきた。
「対抗しようと思ったことは、いままでも全然ないんです。できたら、その横に置いてもらえたら嬉しいなと。飲み比べてもらって、10回に1回うちのを飲んでくれたらいいかな、と」
押しのけるのではなく、隣に並び、目を引き、たまに選ばれる。バーのカウンターで磨かれてきた、イチローズモルトらしい戦い方である。
2026年1月には、ベンチャーウイスキーの完全子会社であるベンチャーグレインが北海道の苫小牧蒸溜所を本格稼働させている。熟成を経て市場投入されるのは2029年以降とされているが、これによってベンチャーウイスキーの原酒量は格段に増えるはずである。その事業拡大に備えての人材育成も着々とすすんでいることになる。
生産量は秩父の約8倍。ただしつくるのはグレーンウイスキーで、これを使った新たなブレンデッドの構想も進んでいる。
現在、比較的一般的に飲まれている「ホワイトラベル」をはじめ、イチローズモルトは数種類が販売されている。なかには売り切れ状態のものも少なくなく、その高い人気ぶりがうかがえる。
2024年3月には、『ウイスキーマガジン』が認定する「Hall of Fame」に選出され、肥土社長は殿堂入りをはたした。日本人としては5人目、最年少での殿堂入りだった。
2004年に新興メーカーとして登場したベンチャーウイスキーは、いまや押しも押されもしない日本を代表する世界的企業に成長している。これから、どうイチローズモルトがブラッシュアップされていくのか楽しみである。




