バーで思いついた「トランプのカード」

スコットランドの酒卸業者に品質は認めてもらえたので、こんどは700mlの瓶で本格的に売り出す製品づくりにのりだすことになった。

「ウイスキーの魅力を伝えるには味のバリエーションがあったほうがいいと考えていました。そこでシェリー酒とかコニャックの空き樽とか、いろんな樽を新たに調達してきて父の原酒を詰め替えて風味を加えました。そのなかから状態のいい4種類を、まずは販売しようということになりました」

本格的に売り出すには、瓶のラベルもつくらなければならない。それについてはバーで知り合ったデザイナーと、バーで相談した。場所にバーを選んだのは、そこには参考になるたくさんのウイスキーの瓶があったからである。

話をしているなかで、「トランプのカードって4種類のマークがあるよね」ということになった。クラブ、ダイヤ、ハート、スペードの4種類である。その4種類をモチーフにしたのが最初のカードシリーズで、2005年に発売する。そこに、のちに世界一になる「キング オブ ダイヤモンズ」もあったのだ。

「この瓶、見たことあるぞ」の口コミで人気に

「トランプのデザインはバーでも目立つので話題になりましたが、『ウイスキーマガジン』で最高得点をとって、かなり注目されるようになりました。サントリーの『山崎25年』という、愛好家にとっては憧れのウイスキーもあるなかでの最高得点ですから、愛好家はザワザワしましたね。じつは、【ウイスキーマガジン』でとりあげられたことは、事前には私も知りませんでした」

この受賞に目を留めた人物がいた。『ウイスキーマガジン』の元編集長だ。「お前のウイスキーはすごいから、ヨーロッパで展開したい」。肥土社長は英語が得意ではなかったが、海外のセミナーやイベントに誘われれば断らないと決め、現地代理店に同行して顔を出し続けた。

バーでは、ウイスキー1本が空くのに1年かかることも珍しくない。売れ行きが遅いぶん、置いてくれる店だけが地域に少しずつ増えていく。すると、あるときから客のほうが気づき始める。「あれ、この瓶、他の店でも見たぞ」となる。マーケティングを仕掛けたわけではなく、自然と口コミで評判が広がっていったという。

ベンチャーウイスキーが販売しているウイスキー
撮影=プレジデントオンライン編集部
ベンチャーウイスキーが販売しているウイスキー。左側の3本が「イチローズ モルト&グレーン」のシリーズで、「リーフシリーズ」と呼ばれている

ちなみに「山崎25年」をサントリーのホームページで調べてみたところ、41万5000円の希望小売価格がつけられている。その値段からも、銘酒中の銘酒であることが知れる。それを差し置いての最高得点なのだから、驚かないわけにはいかない。

最高得点をとったことに勢いづいて、トランプカードの全種類、54種類を世に送り出すことになる。その54種類が、香港のオークションで1億円近い値で落札されることになるのだ。