「父の原酒と同じものはできない」
新設した秩父蒸溜所でつくるウイスキーは、羽生で父親のつくっていたウイスキーと同じではない。真似れば簡単なのにと思われるかもしれないが、あえて、そうはしなかった。その理由を、肥土社長が次のように説明する。
「国際的にも高い評価を受けた父の原酒と同じ設備をつくろうとしても、同じようにやってみても立地条件も違いますから、父の原酒と同じものはできません。そうではなくて、自分が思う最高のウイスキーを実現するための設備をつくろうとしました。いろいろ条件の制約があるので全部を思いどおりにできなくても、理想に近づけるような醸造所をつくりました。父のウイスキーと秩父でつくるウイスキーは同じものではない、という割り切りからスタートしたわけです」
こだわりのひとつがウイスキー造りの要となるポットスチルで、もろみを蒸溜するための銅製の釜のことだ。釜で蒸溜して、その蒸気をラインアーム(パイプ)で冷却器に送り、冷やすことでウイスキーのスピリッツ(蒸溜酒)ができる。
小型のものを使うので個性的で力強いものになると考え、その特徴をさらに引き出すために、釜の頭の部分を真っ直ぐに立ち上がるストレートヘッドにし、ラインアームをちょっと下に向けることで、より力強いスピリッツがつくれるよう工夫してある。特注製で、世界最高峰のポットスチル・メーカーであるスコットランドのフォーサイス社に依頼してつくった。
樽は北海道産、大麦は埼玉産
羽生では無機質なホーロータンクで発酵させていたが、秩父では木桶にこだわった。木桶には乳酸菌が住みつき、酵母による発酵のあとに乳酸発酵が起こる。これがウイスキーを華やかでフルーティーにするのだという。そのうえで素材に「ミズナラ」を選んだ。発酵槽としては世界で唯一の使用で、さらなる個性につながっている。
ちなみに2019年に開設した秩父第2蒸溜所では、発酵槽にフランスのタランソー社に発注したフレンチオーク材が使われている。第1蒸溜所とは、また違う個性のものをつくろうという試みだ。
そして原料には輸入麦芽に加えて、ベンチャーウイスキーの地元である埼玉産の二条大麦も使われている。それによって、ジャパニーズウイスキーらしさをだそうという工夫である。
こうしてできあがったスピリッツは、樽で寝かせる(熟成させる)ことでウイスキーの原酒となっていく。そこでのこだわりを、肥土社長が次のように説明する。
「露出した地面の上に木製のレールを敷いて樽を積み上げていくという、昔からスコットランドでやってきた方式の貯蔵庫をつくりました。父の原酒ではやっていなかったことで、それも自分の理想とするウイスキーをつくっていくためです」
秩父盆地は、夏と冬、昼と夜の寒暖差が大きい。この気温の振れが樽の中の原酒の呼吸を促し、熟成に独特の深みを与えるという。


