全58本セットが1億円で落札された
「正確に言うと全部で58種類です。コンプリートカード(限定カード)の4種類があるからです」と、肥土社長。
スペードのエースとハートのクイーン、クラブのジャックとダイヤのキングの4つを、ファーストリリースとは別にコンプリートカードとしてセカンドリリースしたのだ。2019年のボナムズ香港オークションでは54本セットが約9750万円で落札され、2021年10月には全58本のフルセットが東京のオークションに初登場した。カードシリーズの生産はすでに終了しているので、1本ずつでも目にするのは貴重だが、全種類セットとなると奇跡に近い。
問題は、最高得点を獲得したり、オークションで高値のつくイチローズモルトをつくった羽生蒸溜所製の原酒には限りがあるということだった。肥土社長が引き受けたのは400樽で、一見、多いようにも思えるが、販売していけばまたたく間になくなる量でしかない。
評判になって売れ行きが伸びれば伸びるほど、原酒の量は減っていく。原酒がなくなれば、ベンチャーウイスキーは存続できない。
「日本で35年ぶり」の“ウイスキー蒸溜所”
実際、羽生製の原酒は現在、ほとんどなくなっている。それでも、ベンチャーウイスキーは立派に存続しているし、業績もずっと右肩上がりである。それは、羽生製の原酒に代わる原酒を確保しているからである。
ベンチャーウイスキーは独自のウイスキー蒸溜所を2007年11月に秩父に完成させ、翌年から蒸溜を行っている。その原酒が、いまではイチローズモルトの主たる原料となっている。
初年度は売上高2000万円、赤字2000万円からのスタートだった。それが以後、売り上げの下がった年は一度もないという。秘訣を訊ねると、「一気に伸ばさなかったから」と返ってきた。熟成の酒であるウイスキーは、手持ちのいい原酒を一気に放出すればそこで終わる。計画的に、少しずつ出す。金融機関の信頼も、そうして積み上げてきた。
「日本でウイスキー蒸溜所の免許が下りたのは35年ぶりということもあり、免許を発行する税務署でも発行経験がなかったので、いろいろたいへんでした」
そう肥土社長が言うが、なかでもたいへんだったのが、経営基盤があるかどうかの審査だったという。ウイスキーは蒸溜してすぐに売れるものではなくて、熟成させる時間が不可欠なので、製造から販売までにはタイムラグがある。その間に会社の経営が立ちゆかなくなれば、免許を発行した税務署も責任を問われることになるのだ。
「秩父の原酒が販売できるようになるまでは、羽生でつくった原酒があり、それを売るので経営は問題ないと説明しました。その原酒がほんとうに存在するのか確認する必要があると言われ、税務署の人と原酒を預けてある福島の笹の川酒造まで行って確認してもらい、それで免許もおりました」
2011年、秩父蒸溜所初のシングルモルト「秩父ザ・ファースト」を発売する。7400本という強気の本数は、発売日までに国内外の予約で完売した。

