最初は“ウイスキーの本場”で馬鹿にされた

父親から引き継いだ原酒をブレンドして2005年5月につくったのが、イチローズモルトの第1号である。それを持って肥土社長は、ウイスキーの本場であるスコットランドに飛ぶ。知り合いに地元の酒卸業者を紹介してもらったからで、イチローズモルトの販路を切り拓くことが目的だった。

「持っていたウイスキーを見て先方がまず言ったのは、『なんだ720mlの瓶かよ。ウイスキーは700mlの瓶でないと売れないんだよ』でした。会社を立ち上げたばかりのころは、そんなことさえ知らなかったわけです」と、肥土社長は笑った。

ベンチャーウイスキー・秩父蒸留所のブレンダー室で取材を受ける肥土伊知郎社長
撮影=プレジデントオンライン編集部
ベンチャーウイスキー・秩父蒸留所のブレンダー室で取材を受ける肥土伊知郎社長

肝心の味については何と言われたのかといえば、「味はいいね」だったそうだ。720mlの瓶を使ったのは、ウイスキーの瓶についての知識もなかったので、たまたまあったワインの瓶を使ったからだという。

「自分の名前」を商品名にしたワケ

イチローズモルトというブランド名についても訊いてみた。

「サントリーの『山崎』のように蒸溜所の名前をつければいいのでしょうが、これをつくった羽生蒸溜所はすでに売却してしまっていたので、手元の400樽を使い切ってしまえば羽生製のものはなくなります。羽生の名前で売りだしても、消費者に覚えてもらったころには羽生製ではなくなるので躊躇しました。そのとき秩父に蒸溜所を立ち上げる計画もあったので、秩父にしてもよかったのですが、まだ影も形もない蒸溜所の名前をつけるのもおかしいかなと思ったのです」

そこで思いついたのが、創業者である自分の名前をつけることだった。世界的に有名なジャックダニエルにしろバランタイン、ジムビームにしろ創業者の名前からきている。

「肥土なので『アクトーズモルト』にしようと思ったのですが、どうも語呂が悪い。『悪党のモルト』にも聞こえてしまう」と言って、肥土社長は笑った。

そして下の名前をとって、「イチローズモルト」にした。もともとの原酒をつくったのは父親なので、「父親の名前にしてもよかったのでは」とも訊いてみた。

「そういう発想はありませんでした。美味しくなくて売れないときに、父のせいにはしたくなかったからです。自分の名前をつけるのは勇気も必要で、自分の名前をつけたからには、自分の責任でつくるという覚悟の表明でもありました」