「杉下の正義は、時に暴走するよ」
一方、小野田の正義は、時に法を超えることがある。警察の人間として、社会秩序を守ることが最優先。
したがって、誰かの犯罪を摘発せず見逃すことがより大きな観点で社会の安全や安定を実現するために得策と考えれば、見て見ぬふりをすることもある。
だから右京の真っ直ぐすぎる正義感は、邪魔にもなり得る。「杉下の正義は、時に暴走するよ」(シーズン6第19話)という有名なセリフは、小野田から見た右京の正義の手に負えなさを表現したものだ。
このように、右京と小野田の正義は相容れないだけでなく、時に反発し合う。ともに冷静沈着な2人は正面から争うことはない。だが2人のあいだには普通の会話をしていても常に緊迫感がある。
とはいえ、2人はお互いの能力を十分に認めてもいる。むしろ、いざとなったときに本当に頼りにするのが右京にとっての小野田であり、小野田にとっての右京だ。
杉下右京の「もう一人の相棒」
それぞれの正義の実現にとってプラスになると考えれば、絶妙の呼吸で連携して行動する。場合によっては、右京も違法捜査を辞さない。その点、小野田は右京にとって“もうひとりの相棒”だ(「オフィシャルガイドブック 相棒Vol.2」、75頁)。
これは単なる比喩ではない。警察組織のなかのポジションという点で、2人にはタッグを組む必然性がある。実は小野田も、右京と同様に警察組織からはみ出した人間である。
警察官僚である小野田も、現状の警察組織を是認しているわけではない。だから自分の考える理想の警察、ひいては理想の正義を実現するための改革を推進しようとする。しかしそれが反発を招き、劇場版の2作目で小野田は命を落とすことになる。
小野田の死は物語の展開としてショッキングであっただけでなく、正義を実現することの困難を思い知らせる出来事でもあった。理想の正義を達成するためには命を懸けなければならない。
それは、あるべき正義の概念が共有されているはずの警察においてさえもそうだ。「相棒」が警察ドラマなのは、単に警察組織を実態に沿ってリアルに描いているからだけではない。
より本質的には、「警察とは何のためにあるのか? 結局正義とは何なのか?」という根本的問いを私たちに繰り返し突きつけてくるからである。



