依存しやすいように設計されている

川島教授は、スマホが「強い洗脳ツールである」と指摘する。私たちがスマホをたくさん使うことによって、通信、機器制作、インターネット、アプリ制作に関わる人々にたくさんのお金が入る。だから、「常に新たな情報に接しようと行動するように導かれている」と言うのだ。

「開発に携わる人たちは心理学を研究し、人々が夢中になりやすいような情報の出し方をしています。ひとつの動画を長時間視聴されるより、コロコロといろんなところに飛んでもらったほうが新しい広告が上がってお金が入りますから、YouTubeのような動画共有プラットホームでは気が散るようにできていますし、検索中にあえてハズレの情報を挟み込んでいます。それにより興味のある情報に出合ったときに“嬉しい”と感じるように仕向け、またこの喜びを味わいたいと思わせて、ハマらせていく。つまり依存しやすいように設計されているのです」

さらにスマホを使っていると、「脳を使っている」ように感じるが、これは大きな勘違いで、実は脳が働いていないのだという。先に記したように川島教授の著書には「スマホを長時間使用すると、脳が働くのをやめてしまう」とある。どういうことか。

「正確には限られた場所しか使えていないのです。視覚や聴覚、多少手を動かすので運動に関する機能は使えています。ところがスマホをいじっているとき、情報を処理するための要である前頭前野の活動が低下しているということがわかりました。前頭前野の働きは、考える、覚える、理解するといった知的活動をはじめ、コミュニケーションをする、アイデアや新しい考えを生み出す、判断力、応用力といったもので、人間らしさをつかさどります。リアルな生活であれば、視覚情報があり、聴覚があって、それに対応していれば自然と前頭前野は働きます。にもかかわらずスマホ使用時に前頭前野は働かない。その変な不均衡が、さまざまな弊害をもたらしていると、我々は考えています。その中のひとつがいわゆるスマホ疲れ、何となく元気がなくなっていく、という形で現れるのでしょう」

仕事を1時間しっかり行って「疲れたと感じるか」

例えば認知症予防のトレーニングとして知られるデュアルタスクでは「ウォーキングをしながら引き算をする」「歌いながら体操をする」といった2つのことを同時に行うと、複数のことに同時に注意が向き、前頭前野が活発に活動して認知機能も向上することがわかっている。しかし、スマホで短時間のアプリを切り替えているときには前頭前野の活性化は見られないという。それは、「どこにも集中していないから」(川島教授)なのだそうだ。

「今、自分の脳が働いているかどうかというのは、測定しなければわかりません。けれどもビジネスパーソンで考えると、仕事を1時間しっかり行って、『疲れたと感じるか』は、大きなポイントでしょう。前頭葉(前頭葉の大部分を占めるのが前頭前野)を使って思考を巡らせていると、30分程度で休憩が欲しくなるはず。それが1時間でも2時間でも、もしくは午前中ずっと同じペースでその作業が継続できるのであれば、それは脳が使えていない可能性が高いです」

体を動かさなければ筋肉量が低下していくように、スマホを使い続けると依存性が高まるうえに前頭葉が鍛えられず、脳機能が低下していく。川島教授の調査では、大学生でスマホを長時間使用している人は脳に加齢性変化が表れているという。“早く年を取ってしまう”ということだ。そのため将来の認知症発症リスクが高まったり、発症年齢が早まる可能性もある。

思考力を奪われた人間はコントロールしやすく、低コストで維持しやすい社会になるという経済モデルもあるそうだから恐ろしい。

スマホ依存を回避する方法はあるのか。川島教授がスマホに振り回されない3段階を示す。

「まず『使わない時間』をつくること。特に就寝の1時間前から電源を落として、睡眠時は自分の手元から物理的に離す。これがスタートポイントです」