フィリピン潜伏中に逮捕された渡邉優樹らの「ルフィグループ」。彼らに面会して話を聞き、『檻の中のルフィ』を上梓した栗田シメイさんは「コンタクトを取ったひとりは女性詐欺師の山田。風俗業や売春をしていた彼女は22歳の頃にグループに加わり、特殊詐欺に手を染め、6億円を詐取した「伝説のかけ子」と自称した」という――。

※本稿は、栗田シメイ『檻の中のルフィ 闇バイトを生んだ者たち』(講談社)の一部を再編集したものです。

Nikada
写真=iStock.com/Nikada
フィリピンのマニラ ※写真はイメージです

2019年にマニラへ、犯罪に手を染める

―新人受け入れ資料
―案件説明資料

そう銘打たれた詐欺マニュアルを、山田李沙がマニラのウエストマカティホテルの一室で確認したのは、2019年9月のことだ。

そこには、アポ電(詐欺の電話)に使うiPhoneが支給されること、組織の連絡用のスマホは肌身離さず携帯すること、警察官を装いニセの電話をかける「1線」の手口の詳細などが記載されていた。捜査のアシがつきにくいよう、スマホのSIMカードは月に5〜8枚ほど替えるとも記されている。

また、マニュアルの中では、食費として週に3000ペソ(約8000円)まで支給されること。トイレにはトイレットペーパー以外のものを流さない、夜はできるだけ目立たないように過ごすなど、生活に伴うルールや注意も付言されていた。

かけ子により多少の差異はあるが、山田の詐欺での必需品は以下のようなものだ。アポ電用で2台、リクルート用の3台、業務連絡用の2台と計7台のスマホ。そこにマルチタイプの充電器と置き型Wi-Fi、デスクトップPCにタブレットが1台。これが、かけ子としての彼女の“仕事道具”だった。

日本に電話をかけまくる

フィリピンに渡る前、山田はこれから自分が詐欺を行うということに当然気づいていた。

渡邉優樹の組織では、かけ子をリクルートする際、原則として本人に意思確認をしていたからだ。これは、強制していたわけではないという既成事実を作るためでもある。山田はそのうえで、2つのノルマを自らに課した。

「風俗嬢時代より稼ぐこと。月収200万円が最低ライン」
「やるからには組織でナンバーワンのかけ子になる」

「A箱」に配属された彼女は数カ月後には有言実行し、3年半の間で約6億円を詐取することになる。未払い金を含めれば、取り分は実に6000万円にも上ったという。

山田に与えられた役割は、「1線」のかけ子として詐欺が「刺さる(成功する)」案件を見つけてくることだった。かけ子の中でも1線は詐欺の端緒であり、精神的な負担が最も重い役回りとされる。理由は単純である。ゼロから「刺さる」状態にまでもっていくには、相当の数の電話をこなす必要があり、運の要素も大きいためだ。

「マニュアル一辺倒では人は騙されない」

山田は、1週間ほど電話をかけ続けてそう感じた。かけ子時代の小島のように、組織には適当に仕事をやる者も少なくない。だが、山田は違った。着いて早々、数々の案件を獲得していった。「最初の1分で、騙される人間かどうかの判別がかなり正確についた」とは、本人の弁である。