「ボスにほめられ、うれしかった」

山田が最も得意としたのは、「自分は絶対に騙されない」と過信している者への対応だった。山田にとっては、そんな人物ほどカモになる。「あなたが詐欺に巻き込まれた」という設定を創作し、被害者としていさめながらも、時折「しっかりされているんですね」などと相手のことを褒めるのが山田の手法だった。

多数のスマートフォン
写真=iStock.com/ANGHI
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「五十嵐」と名乗った彼女が詐欺師として突出していたのは、日本へかける「アポ(電話)」の本数だ。一日300本。休むことなく、ひたすらかけ続けた。大半の電話は通話をすぐに切られる。100件近くかけて、1〜2件「刺さる」案件があれば上々だ。成功率を上げるために、数をこなすことは絶対的に重要だった。山田に“数字”がついてくるのは、必然だったのかもしれない。彼女が躊躇なく電話をかけ続けた背景には、こんな思いもある。

「数字を上げられない人間に価値はない、という考えが箱の中には浸透していました。私は誰よりも多く電話をかけ、数字を上げて評価されたかった。実際すぐに案件を取りまくり、幹部たちからも『俺たちはお前を尊敬している』と褒めてもらった。特にボス(渡邉)には可愛がってもらいました。人生でそんな経験をしたことがなかったので本当に嬉しかった」

グループの男たちに強姦された

加入当初はまだ、犯罪行為を行っているという自覚があった。大なり小なり後ろめたさも感じていた。それが1カ月も経つ頃には、「仕事」と割り切るようになり、犯罪に手を染めているという感覚が希薄になっていく。そうして、初月だけで2200万円分のキャッシュカードを奪っている。

ある日の成績発表のミーティング後、数字をあげていた山田は祝福の言葉をかけられ、A箱の仲間たちと打ち上げをした。山田も悦に入り、饒舌となる。しかし、酔いが回ったところで部屋に戻ろうとしたとき、同じ箱のメンバーだった2人の男性に背後から襲われた。右手の薬指がない男だった。次の日、強姦されたことを山田は箱の管理者に伝えることができず、一人で病院に足を運んだ。

トクリュウのルフィグループの一員だった山田容疑者
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トクリュウのルフィグループの一員だった山田容疑者

翌日、A箱に戻って電話を再開しようとした際、“加害者”の男性は周囲に筒抜けになるほどの大声でこんなことを話していた。

「女がセックスを断ったら暴行すればいいんだよ」

悔しくて、涙が頬を伝った。怒りに震えた山田は、復讐を決意する。それは腕力に任せたものではなく、仕事の実績で相手を蹴落とすというものであった。

「こいつらより絶対に上の立場になってやる。そのためには結果を残し続けるしかない」

これ以降、山田の売り上げが月で1000万円を切ることは一度もなかった。その実数は、毎月平均して3000万円ほど。多い月では5000万円にも上ることになる。